友達との会話って、きっとこんな感じ
「……先輩って、綺麗な髪してますよね」
他に話題が見つからなかったのだから仕方ないのだが。
だからといって、急に髪を褒めるのは我ながら少しキモかったかもしれない。
「ありがとう。でもどうしたの、急に」
先輩の疑問は尤もだ。
なんなら、私自身もそれを知りたいと思っているところだ。
先輩との無言の時間が気まずかったので、何も考えずに話題を振ったら髪を褒めてました。
こんな馬鹿な真実を正直に話すわけにはいかない。
どうにか理由をでっち上げなければ。
このタイミングで私が先輩の髪に興味を持つことに納得性を持たせる、その経緯を……。
「……ほら、私の髪って地毛が茶色なんですよ。先生に染髪を疑われちゃうくらいに。一方で先輩の髪って真っ黒だから、ちょっと気になったといいますか……」
「? 髪が黒い人なんて、私以外にもたくさんいると思うのだけれど」
私の咄嗟のでまかせは、先輩の正論によって砕かれてしまった。
それでもここで嘘を認めるわけにもいかず、私にはごり押ししか選択肢がない。
「いやー……実は私、茶髪がちょっとコンプレックスで。人の髪色が気になっちゃう性質なんですよ。だからつい色んな人に髪のことを聞いてしまうんです」
「そう……そういう人も居るのね」
これで、先輩の中の私は髪色コンプレックスキャラになってしまった。
胃が痛い。
「でも、私は里中さんの髪色も綺麗だと思うわ。なんだか銅線みたいで」
(それは褒めているのだろうか……)
とにかく、なんとかして会話を繋げることができた。
あとは髪を起点として、学校に辿り着くまで途切れないように話題を繋ぐだけだ。
私は先輩の隣まで移動して、そのまま並んで登下校を始めた。
「先輩って野球してるのに髪長いですよね」
「お母さんが好きなの、この髪型。だから昔からずっとこれなのよ」
「別の髪型にしてみたいって思ったりしないんですか?」
「あんまり興味が無くて。それに、長いと結びを変えるだけで気分も変わるから」
「あれ? 綺麗にお手入れされてるから拘りがあると思ってたんですけど、興味ないんですか?」
「それもお母さん。髪型も、髪のお手入れも、洋服だってそう。私は興味ないんだけど、お母さんがそういうの好きで。昔から言われた通りにして、買ってくれた物を着て、それが習慣になってるだけなのよ」
「へえー」
「……これ、あんまり言いふらしたりしないでね? なんだか母親に甘えっきりみたいで、ちょっと恥ずかしいから」
そう言うと先輩ははにかんで、唇の前で人差し指を立てた。
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