閑話 川辺のマモノ

――おいでなさい、悲しいひと――


 ある者は川辺で美しい声を聞きました。


――おいでなさい、寂しいひと――


 ある者は海辺に微睡んで、世にも美しい女を見ました。


――おいでなさい、逃げたいあなた――


 それは翼人を溺死させる魔性の声だったのでしょうか。

 鏡のマモノと海のマモノを倒し、次へ次へと進む勇士によって、かの美声は途絶えました。依頼主は『召使や道具をいくつも駄目にされた』と嘆いておりました。


 ですがこれも偽りの話。

 川辺の声も美しきヒトも、逃がすと決めたただヒトでした。危機を悟った力なき者や道具として使い潰されるほかの生物を、翼人の下から黄薔薇の城や……もう少し前の時代でしたら、島やヴィダの国や海の国へと逃がしていたのです。


 美しい尾びれと声。

 か弱き体にあふれる勇気。

 人魚族最後の生存者、その名はプレッカート。紅いしっぽのプレッカート。

 かつてイヌダシオンでは『リプル』と呼ばれた少女にございます。

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