裏切りの鳥人

 樹上鳥人が立ちふさがったとき、勇士一行は仰天したと言います。

 樹上鳥人はフラクロウの親類だったので、はじめは洗脳されているのではないか、脅されているのではないかと議論になりました。


 違う、と分かったとき勇士一行は怒り狂ったと言います。


 けれど体中に鮮やかな刺青を入れた鳥人は、一切引かなかったと言います。


「俺は、里を守りたい」

「もうなくなってしまった里だとしても、取り戻せる可能性が一割あるなら十分だ」

「助けられるなら、十分すぎる」


 古くに滅びた民の、古くに滅びた衣装を身にまとって『ハヤブサ』を名乗った鳥人は、戦いました。


 丈夫な体で。

 長い鍛錬で身に着けた隙のない動きで。

 熟練した槍さばきで、鳥人は戦いました。


 気が狂っていたのだと、後世、他者ひとは語りました。

 いたずら霞の里で、生き延びた者が誰もいないと思い込んで、ハヤブサを名乗った戦士は戦ったのだと。


 けれど違うのです。

 彼が稼いだほんの数時間。

 その数時間の間に、何百人が外の世界に逃げおおせたことか。

 何百人が、灰の怪を見ずに済んだことか。


 彼の”積み重ね”は勇士との闘いで結実しました。

 彼が望んだ対価はただ一つ。

 自分の命と魂を引き換えにして、それらすべてを燃やして戦う代わりとして――――滅んでしまった里で、里人が生き延びたことにしてほしい。


 ハヤブサを名乗った男は願い、叶えるために戦いました。

 裏切者と罵られながら、名誉を失いながら、彼はそうしました。

 日の光が遠く地平に消え去るころ、勇士の剣に刺し貫かれて、かつてオンダーと呼ばれた樹上鳥人は息絶えました。

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