マモノと呼ばれた技術者たち 目次代わりの概説話

 ゴルフェートの死後、イヌダシオンは荒れました。

 生物に寄り添うために生まれつくられ治療機器セルーナは、母の死に嘆くあまり『集落を守るまじない』を敷き直す儀式を忘れました。イヌダシオンを守るために作られうまれ再生機器ハイシアが儀式を行いました。

 しかし、かすかな綻びをフラクロウが見つけてしまったのです。

 以降の悲劇は、語るべくもありません。

 復讐を望んだ者、復権を望んだ者、承認を求めた者――――イヌダシオンの集落は二代女王の垂らした奸計がために内部から蝕まれていきました。

 ハイシアはこれを見抜き、家庭教師であったクラッカに『イヌダシオン』の技術と権利とを外部に逃すよう課しました。

 別世界からの留学者は元居た世界へ。

 この世界に生まれた者は叶う限り遠く、安全な地へ。

 彼らは逃れ、ハイシアはただ一人集落に残りました。


 後世で語られる『イヌダシオンの終焉』です。


 時代が流れました。

 フラクロウが『永遠』に指をかけた頃、更なる災害が生み出されつつありました。先に申した通り、より華やかな繁栄の後には【天秤】の働きで大いなる災いが訪れます。フラクロウの文明はあまりに早く、あまりに貪欲に成長したために、一つ目の時代を超えることができなかったのです。

 生まれつつあった災害の名を『宝石科学』――――後に『灰の怪』と呼ばれ、史上最悪の災害と呼ばれることとなる技術です。


 精霊種の世界での『時の流れ』は、生物種の世界とは違います。速くもなり、遅くもある。

 集落から逃げ延びた、かつてのヒトビトは、イヌダシオンの技術を受け継ぐ技術者まじない師になっておりました。彼らの内ある者はヴィダの森で、ある者は海底で、ある者は平原のどこかで『世界未来を守る』と決めました。

 フラクロウをも守るために、当代人類世界たる翼人フラクロウを敵に回すことを決めました。


 さて、勇士たちの道行を語ることは禁じられておりますが、今ひと時、いくつかの言葉を紡ぐことをお許しください。

 勇士たちはとあるマモノたちを殺しました。


 鏡のマモノを砕いたと自慢しました。

 海のマモノを八つ裂きにしたと自慢しました。

 裏切り者の鳥人の首を見せびらかしました。

 呪いから生まれた人形の部品を見せびらかしました。

 地を駆けるマモノのおびとの毛皮を防具にしました。

 毒の塊だったマモノの毒を、武器を鋭くする材料にしました。

 かつてフラクロウを騙した研究者の体を、王城に献上しました。

 『最後の島』を守る氷のマモノを砕きました。

 『最後の島』へ続く橋に立ちふさがったマモノを殺しました。

 『最後の島』を迷宮に変えていたマモノを殺しました。


 『最後の島』で、大地竜ヨモギを討伐しました。


 そして世界は滅びました。

 これより語るは彼ら『七奇将』と『四天王』――――ええ。世界未来を守るためにすべてを賭すと覚悟して、マモノと呼ばれることになった技術者たちの最後にございます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る