天青愛守(No.0) ゴルフェート
まずは『天青』……彼らが己をそう呼んだように『イヌダシオン』と呼びましょう。
かの者たちの使命はほかの一族と同じく『ハピーメロウの技術を受け継ぐこと』。詳しく申すのならば『自然発生悪・タタリ人形・Pの余波をはじめとする
この一族の
ハピーメロウによって造られた初代イヌダシオンは、名をゴルフェートといいました。
彼女の本体は、見事な銀の鈴でした。
大いなる災害すらも鎮めた賢き歩き巫女が、生涯身に着けた紫と蒼の平紐が揺れる鈴付の簪。それがゴルフェートでありました。
歩き巫女の死後も大切に祀られていた簪は、いくつかの時代を超え、数多の災害を退け、身を削りました。ハピーメロウの御代の終わりには、とうとう鈴のみ残す状態でありましたが、精霊種の資格を得ておりました。
ハピーメロウの住民は、ありったけの願いを込めて彼女を『生類の守護者』として確立し、後世へ贈ったのです。
ゴルフェートはその時々に出会う知的生命体に親しみある姿になれるよう造られておりましたが、集落の中では歩き巫女を模した花人形であったと伝わっています。
絹糸で造られた銀に波打つ髪は背中を隠すほど長く、前髪はぴったりと紫のサークレットで留められ、星を模った房飾りが左の耳元へ流れていたそうです。
背は2ヒㇽロ。綿を編んでゆったりと仕立てた簡素な衣装は清淑で、1ヒㇽロ8シャラクの長さがありました。肩から足首までを覆う蒼い紗はかげろうの羽のごとく広がり、歩くたびに髪とこすれあって、玲瓏な音を立てました。柳を編んで作った手足は手袋に覆われていましたが、労わりを込めた触れ方によるものでしょうか、ほのかな温かみを感じ取ることができたと伝わっています。
ゴルフェートはハピーメロウの御代が完全に終わった後、七つ丘よりもっと北の半島に集落を作りました。先に述べた通り、イヌダシオンは浄化のための施設にございます。集落に暮らす者は例外なく、生命に悪影響を及ぼすと判断された者たちでした。
長い時が流れました。
知性持つ生物が多く現れました。中でも翼人の発展は目覚ましいものがありました。彼らによる蹂躙は、目を覆いたいものでありました。
『
『
『
『
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翼人の、翼人のための神話が語られ始めておりました。
『はじめ、荒涼たる平原に
そんなことはありません。
イヌダシオンに地上全てを、海で覆うような力はありません。できたとして、行う理由もありませんでした。
翼人には分からなかったのです。海に潜る鳥を軽んじ、疎む彼らには。海の底にも生物がおり生活があることも、地上の生物にも理性や知性があることも、彼らには分かりませんでした。
ですから、集落に保護された者たちを、翼人はマモノと呼びました。地と海に属する子どもたち。空への反乱のために、イヌダシオンが造った討伐されるべき物だと。
いずれ己も滅ぼされるかもしれない。しかし、与えられた役割だけは必ず果たさねばならぬと。
ゴルフェートは、クジラの骨から
かくして、後に『永遠』を議題に争う双子の精霊が誕生しました。
ゴルフェートの最期は、
教育途上の双子は、彼女の死を切欠にして道を分たれたのでございます。
…されど、その話はまた次の機会に。
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