マモノと呼ばれた技術者たち

一華凛≒フェヌグリーク

語り始め

 これよりお話いたしますは、とある罪の話。

 至灰期でもっとも古いまじない師となった男「セルーナ」をそそのかした我らが先祖「フラクロウ」が、世界を滅ぼすに至る…その前日譚でございます。


 華やかなりし「ハピーメロウ」の御代。

 およそすべての生物が『避けたい』と願う辛く苦しい事柄を事前に防ぐ術を手に入れ、およそすべての物族が『いやだ』と叫ぶ毒沼を這うような事柄を取り除く術を手に入れ……また、おそらくは精霊種にとってもこの上ない理想郷であった時代。

 しかし…ええ、しかし。

 「ハピーメロウ」は第七の時代を見た最初の文明になりました。終焉は避けられないことも悟っておりました。自分たちが栄えすぎたために、後進に降りかかる苦難が惨いだろうことも、また。

 彼らは自分たちの技術を伝えるよう物族に命じました。

 高すぎる壁を『ギリギリ乗り越えられる壁』にするために。


人形族ら「紅椿手ナウ=テ

シェルター「夜虎ヤジュウ族」

浄化施設「天青イヌダシオン

語り部「翠目ヴィダ

ノル=ホライスン精神の癒し手ノル=ハルモニア寄り添う者などを擁する医療者「玻璃橙ノル

天より大地を見守る「金雪銅家カルム・アオリア

……これらの技術者集団に、技術が伝えられました。


 さて、現在彼らの名を、聞くことはありません。

 なぜか?

 「フラクロウの勇士」の仕業にございます。



 壇上の、漆黒の翼を持つ中性的なヒトは、リュートを持つ手にギリリと力を入れる。観客はただ、黙って見守っている。

 フラクロウの末裔―――クロウ家の贖罪を、静かに、聞いている。



 みなさま『黄薔薇城の姫君』のおとぎばなしを聞いたことはございますか? わずかばかりの断片を話すことをお許しくださいまし。

 ……終末を超えるため、城へ集まった生物たち。彼らはどのようにして移動したのでしょう?

 黄薔薇城は『マモノ』の居城であるとまことしやかに囁かれ、恐れられていました。無論、見張る者がいたはずにございます。まじないとて万能ではない中、精霊種のご加護薄い世界を、一人も取りこぼさずにどうやって?


 ええ。

 先の話に出た、技術者集団。……彼らの、生き残りがフラクロウと勇士に立ち向かったのでございます。『マモノ』と罵られ、剣を向けられながら、からがら、希望者を運んだのでございます。

 彼らは……ヒーローではございません。しかし、わたくし共の代にまで世界が繋がりましたのは、まぎれもなく、彼らの偉業でございましょう。

 彼らの半生を語りましょう。

 彼らの意地を語りましょう。


 つまらない悪意に人生を壊されながら、しばしの憩いであった癒しの園すら壊されながら、世界を繋ごうと最後まで戦った技術者たちの物語。

 「星の浮島」へと至る、物語にございます。

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