補足資料
『いたずら霞の里』について
※『樹上鳥人は未だ波に揺られ』の本編部分のみでは、やや分かりづらいかと思い『クロウ家の書庫』から関係のある部分を持ってきて、追記しています。
地名:いたずら霞の里
総人口:300人以下
種族:樹上鳥人
所在地:七つ丘と南部荒地の合流地点
気候:
寒暖の差がとても激しい。冷たい山風と南の熱気がぶつかることで、雨や蜃気楼が多かった。
※
【鳥人】
トビウオ、バッタ、蜘蛛など、何らかの手段で空中に浮かぶことができる翼人以外の種族。もしくはクジャクやペンギンのような翼人に近い特徴を持つが、長時間飛ぶことができない種族を指す。
「跳人」と記す場合もある。
地上生物からは『翼人の仲間』として敵視される場合があり、翼人からも『翼があるくせに空を目指さない怠惰で穢れた種族』と蔑視される場合があった。一方でそれぞれから『翼人よりは話が分かる』『地這人種よりはマシ』と見られる場合もあり、難しい立場に置かれていたと考えられる。
『いたずら霞の里』を構成していた樹上鳥人は、全身を密な体毛に覆われて、前腕と肩に短い羽が生えていたと考えられている。顎は猿に似た造りであり、尾は枝にぶら下がる筋力を持つ。指は5本。母指のみ短く、あとの4本は長い。指には鋭く硬い爪が生えており、木の幹に片手で掴まることができたと考えられている。
【七つ丘】
大陸の衝突による造山山脈。特に大きな山2つと、やや小さめの山5つが連続した山脈である。
【南部荒地】
中央大陸の南西一帯に広がっていた荒地。海に辿り着くまで、短い場所でも歩いて半月はかかる。多肉植物や寄生植物が多く生育しており、七つ丘との境目まで背の高い植物は稀である。
とある旅行者の手記:
『彼らの里を見て、真っ先に感じた言葉は”矛盾”である。
彼らは小高い樹木の中ほどに、ぐるりと板を繋いで家を建てていた。屋根はない。生い茂る木々の葉が天然の屋根として機能している。屋根がないため無論部屋もないかと思われたのだが、彼らは板の上に精緻な気象紋様を刻み、そこを境界としているようだった。
極めて風通しのよいこの家屋で、彼らは薄いワンピース一つで暮らしている。激しく動く職務の者は、腰を革製のベルトで留めていることもある。
寒くないのかと、諸兄らは考えられたことだろう。
これが案外、過ごしやすいのだ。
一つに、山からの寒気(ルォドと呼ぶらしい)は地表付近に溜まりやすい。反対に、南からの温かい気(ドウと呼ぶらしい)は上へのぼる。あまり上へ行き過ぎると、今度は長雨でドウは逃げる。
彼らは長年の知恵に従い、ルォドからも長雨からも(言うまでもないことだが、上空や大地の恐ろしい捕食者からも)絶妙に身を隠し、守る。
彼らの体毛が濃く沈むような色をしているのは、空からの捕食者から身を守るためであろう。また、足の裏やあごの下の皮膚や毛が緑であるのは、地上の捕食者を欺くためなのだろう。
彼らの服飾も、基本は暗く、巨大葉の下に隠れやすい色合いである。
この方針の真逆を行くのは、戦士職だ。
彼らは派手な羽飾りや、様々な花実の加工品を身に着ける。顔・腕・胴体・足など、染められる毛という毛を染めて、魔除けや戦勝祈願のまじないとする。伝統的な図案も存在するが、個人の識別の役目を果たすものでもあるため、すべて同じになる戦士はいない。
諸兄はおわかりだろう。戦士職は死と隣り合わせだ。
比較的安全な住居を抜け出し、木々の合間を跳んで移動し、
派手で豪華な染毛模様は、命を懸ける者の特権であり、誇りであり、仲間の遺体を判別するための印でもある。(やや下世話な話になるが、模様の染め直しの回数や傷の方向によってモテ方が変わる。傷の多い後衛や色が鮮やかなままの前衛は、戦士職を下ろされることもあるそうだ。)
なお、戦士ではない者にもちらほらと、足のみ染色を施している者がいた。彼らは果物取りや薬草遣いである。
これは私の空想であるのだが、戦士職と果物取り職と薬草遣い職とは、元々同じだったのではあるまいか。ある時子どもたちはまず、運動神経の良しあしで2つの班に分けられる。一方は戦闘職に、もう一方は技術職だ。
この時、戦闘職候補の子らのくるぶしに色が入る。
ある程度の教育を受けてから、それぞれ見込みがある子が各職人の親方へ贈られる。例えば、物覚えのずば抜けた子はツタイテや薬草遣いへ。手先が器用なら染毛職人や料理職へ、といった風に。
そうしてふるいが終わってから、弓・釣り・投石・投槍・投げ罠・医療といった後方戦闘者は比較的目立ち辛い染毛をする。剣・短槍・盾などの最前衛戦闘者は目を眩ませるほど派手な染毛を施される。
これならば、色の入りの違いで職の見分けがつく理由にはなり得まいか』
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