『疑惑』
その後公園へと着いた紗弥加であったが、まだ雄哉の姿はなかった。
「ちょっと来るのが早すぎたかな? まあいいや来るまで待ってよう」
そうして駐車場付近で待っていると、そこへ雄哉の運転する赤いスポーツカーが滑り込んできた。
車から降りると申し訳なさそうに紗弥加に声をかける雄哉。
「ごめんね待ったかな?」
「いいえ、あたしもさっき来たばかりですので。だから気にしないで下さい」
「そう? じゃあ行こうか、乗って」
そう言うと助手席のドアをすっと開ける雄哉。
「ありがとうございます」
紗弥加は一言礼を言ってから車に乗り込む。
(わあすごい車だなぁ、こういうスポーツカーってすごく高いんだろうなぁ、さすが男の子って感じ、かわいい女の子今まで何人も乗せているんだろうなぁ?)
紗弥加がそんな事を考えているとドライバーズシートに雄哉が乗り込んできた。
「さてと、じゃあ行こうか」
そう言いつつ雄哉はゆっくりと車を走らせる。
「どこ行くんですか?」
「良いとこ、楽しいとこだから期待していてね」
「はい、どこだろうなぁ?」
この時紗弥加はどんな所に連れて行ってくれるのだろうとわくわくしていた。
暫らくして着いた所は楽しそうな遊園地であったが、ところがその遊園地は何故か子供達の楽しそうな声が聞こえてこず、しんと静まり返っていた。
(どうしてこんなに静かなんだろう……)
そう疑問に思っている紗弥加に対し自慢げに話しかける雄哉。
「ここだよ、楽しそうでしょ?」
「確かに楽しそうなとこだけどどうしてこんなに静かなの?」
「紗弥加ちゃんのために貸切にしたんだ。そうすれば待ち時間なくいろんなアトラクションに乗れるでしょ?」
ところがそんな雄哉の言葉に呆れてしまい、怒りさえ覚える紗弥加。
「どうしてそんな事したんですか? お金に物を言わせて貸切にするなんてあたしが喜ぶとでも思ったんですか? せっかく楽しみに来たのに貸切で入れないなんて子供達がかわいそうじゃないですか、こういう所は沢山の人の笑顔や歓声があるから楽しいのに、それにさっき雄哉さんは待たずにアトラクションに乗れるって言ったけどこういうのって待っている間も楽しいものではないんですか? 今からでも良いから貸切を解いてください」
「分かったよ、確かにそうだったよな? 自分の事しか考えてなかったよ、悪かったな」
そうして遊園地のスタッフに説明し貸切を解く雄哉。
「これで良いよな?」
「良いですよ、じゃああたし達も楽しみましょう」
「そうだな」
そうして二人は遊園地を愉しむと陽が暮れる頃遊園地を後にした。
遊園地を思いきり楽しんだ後雄哉の運転する車で家まで送ってもらった紗弥加。
「今日はありがとうございました。すごく楽しかったです」
「それは良かった、こっちこそ突然の誘いなのに付き合ってもらってありがとう。また会ってもらって良いかな?」
「良いですよ、その代り今日みたいに貸切とかは無しでお願いしますね」
そう言う紗弥加の顔には笑みが浮かんでおり、雄哉にはそれほど怒ってない様に思えた。
「分かったよ、紗弥加ちゃんに怒られちゃうからな?」
「そうよ、案外怒ると怖いんだから」
「じゃあ気を付けなきゃね、それじゃあお休み」
「おやすみなさい」
その後車が走り去るのを見送ると、マンションへと入りエレベーターで七階へと向かった紗弥加は我が家の玄関を開けた。
「ただいま」
デートの余韻が残っていたこともあり明るく弾んだ紗弥加の声に、奥から麗華が飛んできた。
「ただいまじゃないわよ、こんな時間までどこに行っていたの連絡もしないで」
「ちょっとね、友達とカラオケ」
この時紗弥加は、初めて母親に嘘をついてしまった。
「それほんとなの?」
「ほんとよ」
「じゃああの男の子は誰? ママ見たのよあなたが大学生っぽい男の子の車に乗るとこ」
「ママ見ていたの?」
「あなたの様子がおかしかったから後を付けて行ったの、そしたらあんな派手な車に乗って、誰なのあの子、まさかこの前言っていた会長さんのお孫さんじゃないでしょうね、ママあの子とは会わない様にって言わなかったっけ?」
麗華の言葉に激しく反論する紗弥加。
「どうして会っちゃいけないの? 良いじゃないあたしが誰と会ったって、別に悪い人じゃないわ、どうしてママは会った事もないのに雄哉さんの事悪く言うの? 会ってみなきゃどんな人か分からないじゃない」
紗弥加の言葉に麗華は言葉に詰まり何も言えなくなってしまった。
「とにかく会ってはダメ、良い分かった?」
(紗弥加をあの人の会社に行かせるんじゃなかった、まさかインターンとしてあの子がいたなんて……)
翌日麗華は仕事の合間をぬって広瀬会長の下へ電話をかけた。
「もしもし会長ですか?」
「君か、先日はすまなかったねわざわざ」
「そんな事は良いんです、それよりもお孫さんがうちの娘に興味を抱いてしまっているようなんです。万が一の事があります、だからと言ってそんな事あってはなりません。なんとかして二人がこれ以上会わないようにして頂けませんか?」
「分かった、こちらの不注意でもあったな? 申し訳なかった、なんとかしてみよう」
その後電話を切るとすぐに雄哉を会長室に呼び出した。
「何でしょうかお爺様」
「仕事場では会長と呼びなさいと言っているだろ雄哉。そんな事よりお前先日私の下に来た紗弥加ちゃんにちょっかい出しているんだって?」
「何だよもうばれたの?」
そう言う雄哉は気まずそうな表情をしていた。
「と言う事は本当なんだな?」
「本当です」
「お前達はどういう関係なんだ一体」
「どういう関係も何も俺が一方的に想っているだけです。それ以上でもそれ以下でもありません」
「そうか、だったらこれ以上あの子と付き合うのはやめておけ」
「お爺様までそんな事言うんですか? あの子のお母さんも僕達が付き合うのを反対していました、一体どうしてですか」
「簡単な事だ、あの子の家とうちとじゃ違いすぎる」
「おかしいじゃないですかお爺様はそんな事言う人じゃないのに、それに彼女は元々お爺様のお客さんだったじゃないですか、誰がなんと言おうとあの子の事諦めませんからね」
そう吐き捨てるとその場を立ち去って行く雄哉。
「待ちなさい雄哉」
広瀬の声にも構わず去っていく雄哉。
その夜雄哉は紗弥加のスマホに電話をかけた。
「もしもし雄哉さん?」
『紗弥加ちゃんこんばんは、今近くに誰もいない?』
「今は自分の部屋にいるので大丈夫ですけど何かありました?」
『実はおかしな事があってさぁ』
「何ですおかしな事って、何かありました?」
『今日お爺様に呼び出されて言われたんだけどお爺様まで俺達の事反対しているんだ。もう会うなって、でもどうして俺達がデートした事ばれたんだろうな?』
雄哉の口から改めて放たれたデートと言う言葉に、やはりそうなのかと思わずドキッとしつつ一言謝罪する紗弥加。
「ごめんなさい、それあたしのせいかも」
『それどういう事?』
「実は昨日あたしが雄哉さんの車に乗る所をママが見ていたらしくて、それでママが会長さんの所に電話したのかもしれない」
『そう言う事だったのか、だったら紗弥加ちゃんだけのせいじゃないよ、気にしなくて良いって』
「でもどうしてママは会長さんの電話番号を知っていたんだろう、あたししか知らないはずなのに……」
『そうなのか? ケータイではなく会社の固定電話に直接かけたのかもしれないぞ!』
「そうかなぁ? でもなんとなく引っかかる事があるのよねぇ」
『なに? 引っかかる事って』
引っかかる事とは一体何だろうと首を傾げる雄哉。
「うちのママが初めて会長さんとあった時二人が会うのは初めてじゃなかった様な気がして、お互い前から知っていたみたいなの、それなのに初めて会った様な会話をしていたのよねぇ」
『何か気になるなそれ、もしかしたら二人とも俺達が付き合う事に反対している原因と関係しているかもな?』
この時の雄哉の付き合うという言葉に反応し再びドキドキしてしまう紗弥加。
「付き合う?」
紗弥加の小声でのつぶやきに気付いた雄哉は改めて告白する。
『ごめんまだ正式に告ってなかったね、電話口で申し訳ないけど僕は昨日の遊園地はデートだと思っている。それに昨日一日デートして改めて君への気持ちが深まった気がしたんだ、僕と付き合って下さい、お願いします』
まさかの告白にどうして良いか分からなくなる紗弥加。
「ごめんなさい突然の事でどうしたら良いか分からなくて、少し時間を下さい」
『分かった、そりゃそうだよね、大事な事だからゆっくり考えて。取り敢えず今日のところは電話切るね、おやすみ』
「おやすみなさい」
そうして電話を切った二人。
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