AM0:00 BOTAN26歳

 身体をぬぐうのもそこそこに、風呂を出てベッドへと倒れ込む。彼女らの、本来の使用方法を行使する。いっそ食べてしまいたい。食って、彼女らの痕跡を消してしまいたい。そう思いつつも逆に、彼女に包まれんとするように、潜り込むように、BOTANの中へ入り込む。

 彼女はもう、俺のレンじゃない。 

 深夜1時、同い年。

 2時に年上、3時に28歳。

 飽きることなく、いや、飽きてもなお。精魂の尽きるまで。

 いっそ俺も共に死ねたらと願いつつも死ねずに、俺は生きている。死にたいんじゃない。共に生きたかったのだ。

 中途半端でおかしな、俺という存在に付き合ってくれる、つがいが欲しかった。有機セクサロイドなんて、厄介な生き物だ。生き物なんだから。

 欲しいのは人間の女じゃない。人間の女性も時々俺に興味を示してはくれる。しがない無口な、ライン作業に従事する会社員。ネットでつたない絵を販売する謎の作家。でも会わない、付き合わない。俺は人間ではないから。

 人間ではない、かといって完成品でもない。セクサロイドなら60時間で死ねることが完成品だろう? 生き続けるのは、出来そこないだ。でも本来、人間は一年一歳、年を取る。だからといって俺は俺が人間ですとは宣言できない。

 俺はROZE。使用タイプはC型になる。

 ROZEというスペルは本来ならROSEが正しい。ちょっとひねってあるのだ。

 何でも俺たちセクサロイドを開発した責任者が日本人だったとかで、それにちなんで命名されたのだそうだ。

 立てばシャクヤク、座ればボタン。歩く姿はユリの花。

 タイプは、SHAKUとBOTAN、YULYも女性型で、ROZEだけが男性型である。A型は17歳スタート、B型は成長型。Cは、成長型バイセクシャル。と、ネットには説明してあった。

 有機生物だし成長型だから、俺たちは一体として同じ顔がない。見目よく整えるよう遺伝子操作はされているので、見る者が見ればバレるのだが、ROZEが世間の目に触れることはあまりないので、俺は平穏無事に社会に紛れて暮らしている次第である。

 俺の買い主は、男だった。

 不治の病に冒されてて、それでも少しでも一緒にいれくれる者、抱いてくれる者、抱ける者が欲しくて俺を買ったのだと、彼は語ってくれたものだった。彼が心を開いてくれるようになったのは、4日目からだった。俺を綺麗なままの年齢で殺そうと、自分より若い年齢で殺そうとアンプルを抜いたのに、3時間たっても俺が死ななかったから。

 ずっと……自分が死ぬまで一緒にいてくれる者なのだという認識ができたから。

 俺の耐久時間は3時間でなく一年だった。しかも何度も刺し直して、生きているようである。

 この前、2回目を刺してみたところである。一歳だけ成長して、アンプルを抜いた。刺しっぱなしにしておいて俺も彼の後を追うかと思ったのだが、彼の遺言に思いとどまらせられて、もう少し生きることにして、今に至る。

 俺は亡くなった彼の籍をもらい、彼になりすまして社会に潜んでいる。

 欲しかったのは、共に生きる者。

 俺はBOTANの白い肌によりそい、目を閉じ、呼吸を感じる。肉の鼓動、ゆらめく肢体。いつまでも達しない行為。どこまでやれば俺たちは壊れるのだろう?

 生後一万時間を過ぎて、やっと少しだけ彼の気持ちが分かってきた気がする。

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