第8話:初めてのお家デート

 付き合って一ヵ月。桜は初めて和希の家に招かれた。


「お、お邪魔します」


「いらっしゃいませー」


「……こんにちは」


「お兄ちゃんの彼女さんですか?本物?魔避けじゃなくて?」


「こら七美ななみ。失礼なことを言うな。ごめんね桜。この失礼な奴が四つ下の妹の七美、その隣が七美の双子の弟の七希ななき、で、何か言いたそうにニコニコしてるのが二つ下の妹の空美そらみで……奥でニヤニヤしてるのが両親です」


「「!バレてる!」」


「バレまーす。……はぁ。ごめんね。ほんとに。変な家族で」


「あはは……えっと……和希くんとお付き合いさせてもらってます。冬島桜です。これ、つまらない物ですが」


 隠れている和希の両親に手土産を渡しに行く桜。


「ご丁寧にどうも」


「良い子……流石うちの子が選んだ子」


「……散々恋愛に興味ないとか言ってたお兄ちゃんを落とした女って聞いたから、どんなドエロい女が来るかと思ったら。意外と普通ね」


「……地味でもなく、派手でもなく」


「けど可愛い」


「えっ。やだお姉ちゃん!私以外の女に可愛いって言わないで!」


「七美も可愛いよ」


「じゃあ桜さんと私どっちがかわ「桜さん」ふっ……素直じゃないなお姉ちゃんは「そういうこと言うと明日のデートキャンセルしてまこちゃんと出掛けるよ」やだ!行かないで!」


 妹達が騒いでいる隙に、和希は桜を自室へ連れ出した。


「……なんか、思ってたのと違った」


「弟は大人しいんだけどね。妹達はいつもあんな感じ。騒がしくてごめんね」


「ううん。うち、一人っ子やし、親は共働きであんまり一緒に居らんかったから。賑やかで羨ましい」


「一人っ子なんだ。しっかりしてるから下に兄妹いるかと思った」


「和希先輩はお兄ちゃんって感じやね。長男感ある」


「……」


「ん?何?」


「いや。ずっと思ってたけど、和希先輩って呼び方はちょっと他人行儀すぎない?」


「……和希くん」


「カズくんで良いよ」


「……カズくん」


「ん」


「……なんか、ちょっと恥ずかしいわ」


「ふふ。呼び捨てでも良いよ」


「……カズくんでええ」


「呼び捨てよりはマシなんだ」


「……うん」


 恋人の部屋で恋人と二人きりという状況に、桜は酷く緊張していた。流石の和希も、自分の方を全く見ようとしない彼女の様子から緊張を察し、釣られて緊張してしまう。

 沈黙が流れ、互いに話題を探す。すると、棚にアルバムを見つけた。


「アルバム見てもええ?」


「ん。いいよ」


 棚の中からアルバムを一冊取り出し、和希の隣に座って開く。


「やば……めちゃくちゃ可愛い……」


「あはは……なんか恥ずかしいな……」


「この子達誰?友達?」


 桜が指差した写真には三人の男の子が写っていた。真ん中が和希だ。


「左がみなとで、右はレンタッキーだね。懐かしいなぁ」


「何やねんそのフライドチキンのお店みたいなあだ名」


たき蓮太れんただからレンタッキー。湊は俺の従兄弟」


「従兄弟か。言われてみれば似とるかも」


「そうかな」


「おっ。双子産まれた」


 めくっていくと、双子の赤子の写真が出て来た。一緒に写っているのは幼い和希と空美だ。


「可愛いでしょ」


「七夕生まれなんや。覚えやすくてええね」


「七夕のに和希のと空美のを足して七希と七美」


「なるほど。……にしてもカズくん友達多いなぁ……」


「そうかなぁ」


「……女友達も多いなぁ……」


「あはは……そうかなぁ」


「てか、この子めちゃくちゃ可愛いんやけど。お人形さんみたい」


 桜が指差したお人形のように可愛らしい少女は、和希より三つ下の月島つきしまみちる。見た目はお人形のように可愛らしい女の子だが、中身はかなりやんちゃな子だ。


「その子、中身は番長だよ」


「うそん」


「ほんとほんと」


 和希は桜にスマホを見せる。そこに写っていたのは四つん這いになっている人間の上に座って足を組み、不機嫌そうな顔で頬杖をつく満。彼女の足元には金や茶、赤など派手な髪色をした後頭部が並んでいる。


「……番長っつーか……魔王やん」


「根は優しい子だよ」


「いや、こんな地獄絵図見せられながら言われても。てか、なんでこんな悪趣味な写真撮ってるん?いじめの現場にしか見えへんけど」


「満ちゃんは正義感強い子だから、いじめなんて卑劣なことしないよ」


「その写真見せられながら言われても説得力無いって」


「あはは。だよねー。でもまぁ、会って話して見れば分かるよ」


「なんでこんな地獄絵図見せたん?」


「もし知り会った時にギャップでびっくりしないように」


「なんやねんそれ」


 やっぱり変な人だなぁと、桜は苦笑いする。しかし、桜は和希のその変なところが好きだった。


「……好き」


「ふふ。何急に。俺も好きだよ」


「……うん」


 和希に擦り寄り、抱きつく桜。和希も彼女を抱きしめ返す。桜の心臓の鼓動は激しく高鳴っている。それとは対照的に、和希の心臓は穏やかだった。

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