第13話 最大限の親切を注ぐ行為

 そのあたりで私とナオは抱き合い、交わった。

 私はナオの服を脱がせ、初めて見る彼女の裸体にキスをした。彼女の身体には、三十代の女性に特有のわずかなたるみが出始めていたが、私がそのたるみに口をつけると、彼女は身をよじって恥ずかしがった。

 私は彼女の胸に口づけ、彼女の脇腹に口づけ、彼女の内ももに口づけた。その度に彼女は小さく声を上げて反応し、私もまた、その彼女の声に反応した。彼女は私の服を脱がせ、私の首筋に吸い付き、私の耳の穴に舌を差し入れた。私が声を上げて反応すると、彼女もまた、その声に反応した。

 私たちはお互いの声に集中した。それは紛れもなくお互いがお互いを必要としているという確認の行為であり、その相手だけに最大限の親切を注ぐ行為だった。

 私がナオの中に入ると、彼女の身体はあらゆる手段で私を求め、また、ナオが私を中に入れると、私の身体はあらゆる手段で彼女を求めた。お互いの欠けている部分を求めるように、私たちの四肢は絡み合い、ほぐれかけてはまたそれを絡め合った。私たちは汗の匂いを手当たり次第にまき散らし、お互いの匂いでさらに恍惚に陥った。


 それは地上の言葉でセックスと呼ばれるものだった。私たちは、体力が許せば残りの一生をそれをして過ごしたかもしれない。だがやがてナオの体力がつき、そして私も精根尽き果てた。

 私たちは泥のように眠った。それが、私たちの言葉で親切心と呼ばれるものの終着点だった。



 ここで私は、親切は完全なる酔っぱらいの所業であるという印象を与えてしまったかもしれない。また、セックスは買い物と同じ程度の等価交換でしかないという印象を与えたかもしれない。

 しかし、考えてみて欲しい。完全なる酔っぱらいは嘘がつけない。嘘がつけない彼らはまるで天使だ。そして、セックスに値するほどの何かを人に与えられるのは、どんなことであれ素晴らしいことに違いない。もしセックスを神聖視しすぎているという罪で投獄されるなら、私は喜んでその恥辱を引き受けようと思う。

 というわけで、私はまだロマンチストであることを止められていない。私は、一日中酔っぱらっているアル中がどんなにひどいことをするのか知っているし、ほんのつまらないことでも人はセックスをしたがるということもよく知っていながら、こんな戯言を喋り続けている。


 みなさん、もう演目は終わりました! 早く携帯電話の電源を入れて、早くなにかもっとマシなことをするように!



 さて、これを書いている間に、エマがふいと姿を消した。何か私は彼女の気に障ることをしただろうか? セックスのくだりが彼女を傷つけたのだろうか? それとも、単に再び私に愛想を尽かしただけか?

 いずれにせよ、私とナオが二人で親切心を交わし合ったのは事実だ。私にとっては、体中の細胞が入れ替わるほどの体験だった。それについてエマがどういう感想を持ったのかは、私の理解の範疇外だ。


 ちなみに、エマと私が初めて親切を交わし合ったときも、私は同じように体中の細胞が入れ替わるような思いをした。ベッドの上で抱き合いながら、エマは自分が自分でなくなったようだ、と言った。そのときの彼女は私と同じロマンチストだったから、その日を境に彼女はロマンチストであることを止めたのかもしれない。

 私は体中の細胞を二回取り替えてもロマンチストのままだ。これは、私が生涯ロマンチストであれという、神の与えたもうた試練なのだろうか。


 ついでにもう一つ。

 ロマンチストは神を信じない。彼らが信じているのは、自分の想像力だけだ。

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