第4話
由香の運転で到着したのは道の駅かつやまという、河口湖でも少し奥まったところにある施設だった。地域的にはかつて勝山村と呼ばれていた場所らしい。
売店に食事処、カタログが並ぶ観光案内用の建物とお手洗いが小さくまとまっている道の駅で、高菜は一目で気に入った。
山に隣接していて富士山が見えないにも関わらず、客の入りはそこそこだ。その理由の一つはすぐ近くにある。
「いいところね、ここ」
「でしょ。私も気晴らしでたまに来るよ」
高菜達は道の駅の向かいにある、芝生で全面を整備された公園にいた。
敷地面積的にはこちらの方が道の駅よりも広そうだ。河口湖畔に接しているので見晴らしが良く、開放感がある。
そこで地元の吹奏楽部の学生が数名で練習をしていたり、家族連れが日よけのテントを張って遊んでいるという光景はのどかで悪くなかった。
高菜と由香はそれぞれ缶コーヒーと紅茶を手に、思い思いに過ごす人々をのんびりと眺めていた。
「ねぇ、仕事の方はどう?」
遠くで浮かぶボートで釣り糸を垂れる人を眺めていたら、由香がそんな話を振ってきた。
「……楽しかったり楽しくなかったりする」
「あー、やっぱそんな感じかぁ」
そう言ってから由香は紅茶を一口飲んだ。
「学校の先生って大変?」
「大変。もう色々と大変」
本当に大変なのだろう、色々という言葉の中にかなりの意味合いを感じた。横から見える由香の顔は高校時代と違って上手に化粧がのっているが、ときおり見せる表情に深い疲れが滲み出ているように感じる。
「でも、ゲーム作るのだって大変でしょ?」
久しぶりに会った友人に自分の愚痴を話したくないと思ったのだろう、由香はそんな風にこちらに話題を振ってきた。
「まあ、もう辞めたいって思うことは結構あるよね」
就職してからのことを思い返すとたまに「うっ」となる記憶があるのも事実だ。だが、それでも自分はまだ同じ仕事をしている。
まだ好きでいられている。好きでいられるうちは続けられる。高菜はそう考えていた。
「どこも同じかー。みんな、相応に苦労して社会を生きてるのね」
そう言ってどこか眩しそうに家族連れを眺める由香にどんな言葉をかければいいのか、高菜にはわからない。職場での彼女は知らないし、「だったら辞めれば」と言って解決する問題でもない。
「そういうもんだよね。一応、職場の不満を聞くくらいならできるけど?」
「ううん。どうせなら楽しい話を聞きたい。ゲーム会社に勤めてる友達なんて高菜ちゃんだけだし。久しぶりにゲームの話を沢山聞きたいな」
「テーマが漠然としてるから、あんまり上手く話せないかも」
「平気だよ。時間はあるから」
そんなわけで、その場で高菜によるゲーム業界の話が始まった。
業界の噂話、有名人の奇行、ちょっとしたアイデアでゲームが面白くなった話。職場の皆で集まってボードゲームをしている話。
高菜はできるだけ楽しい話題を選択した。由香の言った通り、せっかく再会した友達と暗い話題を続けてもしょうがない。
途中から舌が乗ってきたこと、由香が学生達が遊んでいるゲームについての質問をしてきたことなどがあり、気がつけば二時間近く時間が経っていた。
「……マジで雑談だけで時間を使ってしまった」
ふと気づけば、時刻は午後三時を周り夕方ともいえる時間帯が近づいていた。
大人として、社会人として、もっと時間の使い道があったのではないか。そんな考えが脳裏をよぎる。
「なんだか学生時代みたいだね」
高菜の思考とは裏腹に、由香は楽しそうに笑っていた。
言われてみれば、酒もなにも入らない楽しいだけの話というのはちょっと懐かしさを感じることだ。
「それで、結局、高菜ちゃんはどうして山梨に来たの? 昔のことを思い出したい理由があるんでしょ?」
「……わかる?」
唐突な質問に驚いて、思わず質問で返してしまった。
「人が普段と違う行動をとるのは、なにかあった時だよ。良ければ先生に話してみなさい」
口調は昔のまま、大人の顔で友人はそう言った。
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