第83話 山!

 ……自分から放出される蒸気で宇宙服の視界がふさがれるという状況の中『ゆうきちゃん』の誘導を頼りにアクセルをベタ踏みして進んだ。


 俺は、例の『イタチ』の言葉でムカッ腹を立てて逆上している自分の他に、妙に冷静な自分がいる事に気付いていた。


 ……本機『ペガサス』……『ロケーター・ムーバー』は、文字通り『指定した座標ロケート』に移動する為の装置だ。 人間のチンケな目ん玉を使って運転するより、正確な『座標』一点を目指して進む事を前提に設計されている。


 祐希ゆうきさんずからプログラムされた超高性能アプリ『ゆうきちゃん』の的確な誘導で、絶好の攻撃位置に移動したペガサスは、前方に取り付けた短針銃ニードル・ガンを放射! たった一発で、先行していた憎き『ダルメシアン端末』を跡形も無く消し去った。



 ……ゆうきちゃんが懸念していたのは、ここからだ。


『飛行端末』が消滅した座標を全てのダルメシアン端末が共有し、その原因を探るべく、奴等が飛翔し、あらゆる情報収集を開始した。


 こちらも同時に奴等の位置を捕捉した。


「……全ダルメシアンの軌道予測が終了しました。 退避行動を開始します。 移動準備を!」……と、ゆうきちゃんが言ったが、それを俺は拒絶した。


かける……さん……差し出がましいですが……あと132秒以内に移動しませんと、集中攻撃を受けます。 直ちに移動する事を推奨します!」


 何を言ってる…。 このチャンスを逃す手は無い! 俺は『動かざること山の如く』微動だにしなかった。


 あっという間に、攻撃予定時刻になった。


 ……ゆうきちゃんが「……私の力不足で……駆さんを護れませんでした。 申し訳御座いませんでした」……と、心做こころなしか哀しげに言った。


「何を言ってる! これからが君の出番だ!」


 俺は、再びハンドルを握る手に力を入れた! ……そして……


 発動確率100%を誇る『能力』でペガサス周辺の空間を『固定』した! それと同時に、群がるダルメシアンの動きを封じた! 彼奴等あいつらは、風船にぶら下がった間抜けな姿をしていただろう。 ……まあ、俺には、その姿は湯気で視えなかった訳だが。


 ……もし、その姿を目視してしまったら、俺は相変わらず可哀想になって、攻撃なんて出来なくなっていただろうな(汗)


「……駆さん!? これは?」


 ……さすが高性能アプリだ。 ユーザーに質問して来るとは!


 ゆうきちゃんが知らないのも無理は無い。 俺の真の能力が『ロケート・スティッカー』なる、空間を固定して、相手の動きを封じるものと判ったのは祐希さんが行方不明になったあとだからだ。


「……と言う理由わけだ。 さあ、ゆうきちゃん! 奴等の座標を頼むぜ! 殲滅する!」


「了解!」


 さあ! ペガサスの本領発揮だ!


 行っけ〜〜!

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