第71話 因果!

 ……エアバッグが自動的に収納され、急に身体が自由になった。


 手探りでドアレバーを引くと、案外あっさりとドアが開いた。


 ロケーター・ムーバーから足を降ろすと、ガリゴリと音がした。 研究室は既に足の踏み場もなかった。 下手に降りると転びかねない。 俺は慌てて足を戻し、途方に暮れてシートにもたれた。



 ……東矩とうがねさん救出の唯一の希望だったロケーター・ムーバーが……バラバラの破片と化してしまった……。


 ……俺の全身を絶望が包み込み、力が入らない……。 もう、指一本すら動かす事が出来なくなっていた。


 ……俺の人生って、一体何だったんだ……結局、好きな女性ひと一人を救う事すら出来なかったじゃないか……。


 はっ!


 暗闇の中で、俺は……ある『因果』を思い出した。


 ……俺の曽祖父は、もう一人の能力者と共に、自らの危機を脱する為だけに、巨大地震を起こしてしまったと言う。 ……その震災の被害者は……死者・行方不明者105,385名……。 


『親の因果が子に報い』……という言葉がある。 俺の人生がうまくいかないのは、そのむくい……だと思えば辻褄つじつまが合う。


 俺には……これから生きて行く為の希望が、何一つとして残っていない。 ……このまま静かに、瓦礫の中で朽ち果ててしまいたかった……。






 研究室のドアがいびつに開き、光が差し込む。 そこには、さっき俺を置いて逃げ出した旧次郎博士がポツリと立っていた。


 

「法外君……無事かね?」インカムから、博士の声がした。


「…………」……返事をしたくても、生気を失った俺は、声さえも出ない。


「さすが『恐怖のトリガー』……『Cセンター oオブ Rレゾナンス SサイドHホーガイ』の直系血族! その実力、とくと見せて貰ったぞ!」


 ……俺の真の能力は『物体を100%固定する』の筈だった……。 ……で無ければ、ロケーター・ムーバーを使いこなす事は出来ない。 曽祖父と同じ『破壊系』の能力が発動してしまったら、東矩さん救出にはクズ程の役にも立たなくなってしまったんだ……。


「法外君……儂からも頼む! 東矩祐希を救出してくれ」


 ……何を言ってるんだ……ロケーター・ムーバーが無ければ東矩さんの元には行けないんだよ……。


 …………ん? そう言えば……このロボボンの『内装』は潰れていないよ……ね?


 博士が予備の照明を点灯つけてくれた。 急な眩しさに、目がくらむ。


「さあ、法外君……降りて来て、見てやってくれ。 これが『ロケーター・ムーバー』の……真の姿だ!」……と、芝居がかった言い方をした。


 俺は、言われるがまま、足元に気を付けながら博士の横に立ち、振り返った。


 ……すると……そこには、信じられないものがあった!




 世界の終わりを象徴するが如き瓦礫の山を雄々しく踏みしめ、流線型の輝く車体が姿を現していたのである!


 し、しかも! こ、こ、これは……!


 自動車に余り興味を持たない俺でさえ知っている、伝説の名車! あ、あの


『クレメンティーン “ペガサス100ワンハンドレッド パーフェクト エディション』!


 更に、あの衝撃にもかかわらず、白く、神々こうごうしく輝く車体には、凹みどころか、擦り傷一つ付いていない!


 これぞ『ペガサス』という『白馬』だ!


 お、俺は……白馬に乗って……東矩さんの危機を救えるのか! ……そう思うと、自然に涙が頬を伝った……。


 博士が……「どうかね、法外君。 まさに『騎士ナイト』が駆るに相応ふさわしいディティールだろう」……と言ってくれた。


 ……俺の目には、その博士の姿も、後光が差して、まるで神が降臨したかのように輝いて見えた!

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