第72話『NG』!

 ……勝目かつめ 旧次郎きゅうじろう博士は莫大な『抗重量波動理論』の特許料の大半をクレメンティーン “ペガサス100ワンハンドレッド パーフェクト エディション購入に使ったという。


 実験が成功したあかつきには三次元移動が可能となる『ロケーター・ムーバー』の航行上、空気抵抗、バランス、操作性などに最も適したフォルムが、最高級車『クレメンティーン』だったそうなのだ。


 ……更に、クレメンティーン ペガサスの中でも『パーフェクトエディション』は、如何いかなるオプションパーツをも受け入れられる『余裕』と『遊び』があり、研究用から軍事用まで、様々な装備の搭載が可能だと言う。


 ……これは、願ってもいない性能だ!


 俺は早速、鵺頭ぬえがしらさんから借りた『AS』と『NG』をワゴン車から下ろし、ロケーター・ムーバーの近くに運び入れた。 ……そして『NG』……『短針銃ニードル・ガン』を博士に見せた。


「ほう……鵺頭ぬえがしら……随分と大盤振る舞いをしたな……」……博士がニヤリと笑った。


 短針銃ニードル・ガン……無反動で煙の様な無数の細い針を高速で射出する『暗殺兵器』である。 射出する『針』の直径や材質を変える事により、証拠を一切残さずに目標を葬る事も可能な、地味だが最凶・最悪の兵器だ。


 博士がクレメンティーンの座席に座り、中央のパネルを操作すると、ボンネットや側面が複雑に開き、そこに短針銃ニードル・ガンの付属ケーブルや本体がピッタリと収まった。


「よし、法外君。 ちょっと試射してくれ給え」


「はい」


 博士と交代し、シートベルトを締め、インカムを再び装着し直した。


ニードルは、ロケーター・ムーバーから正確に、つ直線的に射出される。 照準を合わせるには、ロケーター・ムーバーそのものの姿勢を制御する必要がある。 ……ず浮上させよう。 起動して、ハンドルを軽く手前に引いてくれ』


 ロケーター・ムーバーを起動し、軽くハンドルを引くと、外部モニターの画面が下がった。 浮上したのだ、


 博士達が肩を叩き合って喜んでいるのが視えた。 ロケーター・ムーバーは、今回が初浮上だからな。


『法外君、きみの『ロケート・スティッカー能力』は完璧に機能している! ロケーター・ムーバーの外壁には、内外双方向のプレッシャーストレスは皆無! 車体崩落の危険度は……0%だ! ありがとう!』


 ……どういたしまして! 俺は、ちょっぴり誇らしかった。


 博士が、部屋の壁面にあるパネルを操作すると、正面の壁が開き……


 あっ! ロボボン! だあったのか!


『これは、ロケーター・ムーバーの落下防止用カバーの予備だ。 もう必要無いから、短針銃のテストに使おう』


 ……何か可哀想だが仕方ない。 やらさて貰います。


『センターパネルの『NG』ボタンを押すと、短針の射出口が開き、モニターにカーソルが表示される。 照準を中央に合わせて、ピンチ操作で拡散範囲を決め『TL《ターゲット・ロック》』ボタンを押せば、照準が固定される。 後は敵の攻撃を避けつつ、タイミングを見計らって『FIRE』ボタンを押せば『短針ニードル』か噴射される!』


「了解しました! 試射します」


 ロボボンの中央に標準を合わせ、発射してみた。


 ……! 『ジャッ!』という音が響き……ロボボンの中央に真っ黒な『穴』が出現した!

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