第67話 急停止!

「……これは、俺が『負ける手』を出していたのでは無く、相手の掌を『勝つ手』で固定させていたんです!」


 俺の本当の『能力』……それは『物体を100%固定する能力』と『時間と空間を超越した視覚』だったんだ。


 だが、俺の能力は2つに大別される。『顕在性能力』と『潜在性能力』だ。


 前者は100%の発動が可能だが、後者は誰かに何らかの危機が迫った時に、まれに発動する、不完全な能力だ。


 ……以前、東矩とうがねさんと共同作業をした、爆発物の発見と処理(第12話『未知!』〜第16話『嘘!』をご参照下さい)、そして行方不明だった、短歌で未来を100%予告する能力者『神余かなまり』さんを見付けた時や、自衛隊のレーダー監視網を破壊された際に潜水艦攻撃を予測した時……など、危険度の高い事件の時は、発現しやすいようだ。


 ……で……だ。 ここで、今回の東矩とうがねさん救助のかなめ、『ロケーター・ムーバー』について解説しよう。


 正式名称は『抗重量波動放射式推進装置』……すなわち、人類の夢『反重力』を実現する装置だ。 しかし『抗重量波動』こと『反重力波動』を放射すると、それはあちこちに反響・干渉し、いくら完璧に接合部を塞いでも、衝撃や圧力として装置を襲って、堰を切ったように亀裂が走って、分解してしまう。


 その亀裂を発生させないように、ロケーター・ムーバーの機体を『100%固定』出来れば、この『がんばれ! ロボボンの出来損ない』は、先人たちが熱望しても叶えられなかった、何処へでも移動可能、しかもクリーンエネルギーと言う、夢の乗り物になるはず……なのだ!


「俺は、祐希ゆうきさんを狙う『敵』に怒りを覚えた時、頭の中で、何かのタガが外れた気がしました。 そして、元々あった、この100%の『能力』の『リミッター』が外れたようなんです。」


 ……さて、ここで聡明な読者の方は、俺が、この前『イタチ』……いや『人を100%怒らせる能力』を持つ『猪狩さん』と2回目の対峙をした時(第51話『真紅!』をご参照下さい)に、地面が揺れていたのをご記憶だろう。 ……これも、実は俺の『物体を100%固定させる能力』によるものだったのだ!


 普段あまり気に留めていないが、俺たちの足下あしもとは、常に何らかの『動き』がある。 ……それは風だったり、音波だったり、地震計では検知出来ない振動だったり……。 この『動き』を俺が数十メートルの範囲で急停止したもんだから、エスカレーターが急に止まった時のように、俺や猪狩さん、そして近くに居た人々が、逆に、地面が揺れたように感じてしまったのだ。


 ……これは、決して後付けの設定では無い!

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