第62話 カツメ!

 高速を飛ばし、その後メチャクチャ路面状況の悪い山道を上り、やっと建物が見えて来た。


 …その建物は、辺りの鬱蒼うっそうとした風景の中には似つかわしく無い、それなりに近代的な造りだった。


 門には『勝目かつめ研究所』……と、判りやすく掲示されている。 ちゃんとルビまで振ってある(笑)


 ……ご丁寧に、インターホンもついていたので、ボタンを押すと…


「今、解錠かいじょうした。 開けて入って来い」……と、低い声がした。


 鵺頭ぬえがしら氏が『変わり者』と言っていたので、覚悟していたのだが、意外にちゃんと対応してくれたので、ちょっぴり安心した。



 正面入口近くに車を停め、入口前に立つと自動ドアが開き、初老の男性が現れた。 ドラマで良く見る『マッドサイエンティスト』を、少し現実的にした感じの人だ。 『無骨な科学者』のご多分に漏れず、仏頂面だ。


「初めまして……わたくし……」……と、俺が切り出した言葉を遮るように…


法外ほうがい かける!」と、低い声で言った。


「……え、何故……俺の名を?」と驚いて聴き返すと……


「勝目博士がお主の事を知っておったのだ」と言った。


 えええ!? なんだよ! この人、勝目博士じゃないのか!


「……か、勝目博士に……お願いがありまして……」


「では、まずわしと……『じゃんけん』をせい!」


「……! ……じゃんけん……ですか……」


「一度でもお主が勝てば『LM』を貸してやろう……と勝目博士が申しておった」


 ……変だ。


 俺の名と、俺の能力を知っているから『じゃんけん』と言う言葉が出たんだろう……だったら、俺がじゃんけんに負ける能力を持っている事を知っている筈だ。 初めから貸さない気……か?


 それにしても、俺が『LM』を必要としているのも見抜いているとは……あなどれないな……。


 こんなに危険な香りがプンプンしてるのにに、俺の心は珍しく落ち着いている……。



 ……ま、まさか!


 大量出血→大量輸血……で、体質が変わっちゃった……とか!?




「じゃん! けん!」……おじさんがこぶしをを振り上げる。


「ぽん!」


 ……おじさん……チョキ、……俺……パー


「ふむ……じゃん! けん! ぽん!」


 ……おじさん……グー、……俺……チョキ


「ふむ……じゃん! けん!……


 ……いくらやっても俺の負け。 ……へへっ……100%のチカラ! 舐めんなよ!(ちょっと安心)


 おじさんは、疲れてしまったらしい……イスに座り込んで、ポケットからタバコを出して、吸い始めた。


 俺は、暫くどうして良いか判らず、ボーっと立ちん坊をして、おじさんの口から吐き出される真っ白なけむりを眺めていた。


「さすがは法外家の末裔……『能力』の『顕在化』が著しいな……」


 ……との声がしたのでそちらに目をやると、白髪はくはつ白髯はくぜんの神々しい御尊老がオレを見ていた!

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