第61話 診察!

 ……俺は、ようやく力が戻って来た声で、はっきりと鵺頭ぬえがしらさんに宣言した。


「俺が負けたら……『AS』も『NG』も借りずに……東矩とうがねさんを……助けに行きます!」


 ……そして「……じゃん……けん……」とこぶしを握り締めて、鵺頭さんをうながした。


「待って!」……と、鵺頭さんが俺の拳を両手で抑え込んだ。


「さっきも言ったけど……『AS』は、それだけでは何の役にも立たない代物しろもの……法外さんは、どうするつもりですか?」


「『勝目かつめ博士』……に、お願いに行きます!」


 ……鵺頭さんの両目が、再び見開かれ……


「勝目……博士……って……『勝目かつめ旧次郎きゅうじろう』……の事?」


「はい。 東矩さんを救う最後の希望は、彼だけです!」


「……勝目……旧次郎を知っている貴方あなたは……一体……何者なにもの?」


 ……俺は、鵺頭さんに抑え込まれた手と、もう一方の手で、鵺頭さんの手を握り返し……


「俺は……祐希さんの『騎士ナイト』です!」


 ……な〜んて、ちょっとカッコつけて言ってみた。


 鵺頭さんは、両目からポロポロと真珠のような涙を溢しながらも、え切れなくなったのか顔をくしゃくしゃにして……「ぷっ」と吹き出した! ……そして……


「……負けました! 私の負けです! 『AS』と『NG』を法外さんに差し上げます。 でも……これだけは約束して下さい! 絶対に無理はしないで! ……祐希は……貴方に『もしもの事』があったら生きていけないだから!」……と言ってくれた。


 俺も、こぼれ落ちる涙をぬぐいもせず、鵺頭さんを握る手に、更に力を込めながら「はい!」と答えた。



 ……そのあと先生の診察を受けた。


 先生は、俺の回復力に、驚きを隠せないようだった。


「……最初、法外さんの血管造影アンギオグラフィを診た時は、重度の血管障害だったのに……この数時間で、ほぼ回復している! ……HBハーベーもヘマトも……輸血量以上に増加しているとしか思えないあたい……だ!」


 ……そんな訳で、俺は、即退院が許可された。


 ……のだが……


 ……東矩さんの救助が済んだら、数ヶ月後に行われる『日本循環器科学会』のサンプルとして協力する事になってしまったのは、言うまでもない。



 ……病院には、鵺頭さん……祐香さんとご主人が、大きなワゴン車で迎えに来てくれた。 後部には、大きなジェラルミンケースが2つ積んである。


 俺は、鵺頭さんご夫婦に、心からのお礼の言葉を述べた。


 ご主人は「……いや、こちらこそ、これ以上の協力が出来ず、申し訳無く思う……。 何せ、勝目旧次郎は変人だからな……俺達が同行したら、絶対に門前払いを喰らう羽目になるだろう」と言った。


 更に「……勝目は『祐希を救う為に必要だ』……と言えば、必ず協力する筈だ」……と教えてくれた。


 俺は改めてお礼をして、2人と堅い握手を交わし、ワゴン車に乗り込んだ。


 別れ際に祐香さんが『御守』を渡してくれた。 そこには『猿面・虎身・蛇尾』の妖獣『ぬえ』がえがかれている。


「これは鵺頭家に伝わる家宝です。 ……必ず、法外さんの手から、私達に返して下さいね」……と言ってくれた。


 ……ご主人も「くしたら弁償だからな〜」……と言って、微笑んだ。


 必ずお返しする事を約束し、俺は勝目博士の研究所を目指してワゴン車を走らせた。

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