第59話 過去!

 ……俺は鵺頭ぬえがしらさんからの罵詈雑言を、真っ向から受け入れる覚悟をした。 ……それは、あの時、俺が『100%』の広告に応募さえしなければ、今、東矩さんが危機に陥る事も無かったからだ。


「法外さん……」


 ……鵺頭さんが落ち着いた声で話し始めた。


「今、妹は必死に危険から逃れようとしています。 私も……いや私達も、妹を必死に救おうとしました。 それは……妹が大事だから……」


「……はい……」


 ……俺は、鵺頭さんの顔を見れなかった……。


「……でも……それだけではありません」


  ……?


「……妹が『どんな手段を使っても生きていたい』と言ったからです」


 ……俺は顔を上げ、鵺頭さんの顔を見た。


 鵺頭さんは、笑顔を見せてくれていた。


「以前、妹が言ってました……『私を心配してくれたのは法外さんが初めて……ありがたかった』……と……」


 ……それは以前、確かに東矩さんが言ってた言葉だ。


 ……鵺頭さんの話では、東矩さん……祐希さんは、姉である祐香さん(鵺頭さん)だけを溺愛する、ご両親の『ネグレスト』のせいで、常々、自らの命をおろそかにするような生き方をするようになってしまったそうなのだ。


 そんな祐希さんが、俺と出会ってから次第に変わったと言う。 そして、疎遠な状態のままとついだ祐香さんとの関係も、急激に改善したそうだ。


 ……祐香さんは、ご両親の手前隠していたが、ずっと祐希さんをいとしく思っていた為、祐希さんが心を開いてくれた事が、何より嬉しかった……と言う。


 そして今回、自ら必死に生き抜こうとする祐希さんを、全力で救おう……と思ってくれたのだ。



「……法外さんが『AS』と『NG』を使って妹を救おうとしてくれている事だけは判ります。 ……しかし、ご存知でしょうが『AS』単体では、何の役にも立ちませんし『NG』に至っては、単純であるがゆえに、証拠を残さず対象の命を奪う『殺戮兵器』です。 私は、妹の……そして私達家族の恩人である法外さんに、危ない橋を渡って欲しくない! ……いつか『必ず無事に戻って来る』……と約束した妹の為にも!」


 ……そう言って、俺を強く抱きしめた。 そして、こらえきれない嗚咽を、必死に噛み殺していた。


 ……鵺頭さんからは……東矩さんと同じ香りがした……。

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