第57話 貸して!

 俺は、身体を動かそうとするが、どうしても動かない。


「あ! 法外ほうがいさん……無理しないで。 ……出血多量なんですから……!」


 ……聴けば聴く程、東矩とうがねさんにそっくりな声だ。


 ……それもその筈……このかたは『鵺頭ぬえがしら 祐香ゆうか』さん……旧姓『東矩とうがね』……『東矩 祐希ゆうき』さんの、実のお姉さんだ。


 ……「なぜ……俺の名を……?」


「法外さんの事は妹から聴かされていました。 ……とてもお優しいかた……だと……」


 そうか……お姉さんに、俺の事を話してくれてたのか……。


 ……鵺頭さんの話では、俺が血を吹き出して倒れた後、うわ言で鵺頭さんの名を繰り返していたらしく、その場で守衛さんが鵺頭さんを呼んでくれたそうだ。


 ……俺の事を知ってくれていた鵺頭さんは、この病室まで付き添ってくれたのだ。


 何日くらい気を失っていたんだろう? ……と心配したが、あれは、ついさっきの事だったようだ。 処置が速かったからか、何とか露命を繋ぎ止めた。


「鵺頭さん……『俺』の事は、妹さんから……までお聴き……です?」


「以前、妹が体調を崩してうなされていた時に『ホーガイさん!』……と、何度も何度も口にしていたので、心配して聴いたら……で知り合った好きな人だ……と言っていました。 ……それだけ……です」


 ……更に「……その時に、貴方の写真を見せて貰いました。 ……妹の、あんな嬉しそうな……そして照れくさそうな顔は、姉の私ですら、初めて見ました。」……と続けて言ってくれた。


 ……そうか……流石に『能力』や細かい説明はしていなかったんだな……。


 俺は、無理矢理に身体を起こした。


 鵺頭さんが心配しながら俺の身体を支えてくれた。


「……時間が無いので、恥も外聞も捨てて、お姉さんにお願いがあります。 祐希さんに危険が迫っています! 直ぐに追わないと、祐希さんの命に関わります!」


 ……鵺頭さんは、俺の眼をじっと見つめたままだ。


 俺は誠意と東矩さんへの愛を込めて、回り切っていない呂律にむち打ってこう言った!


何卒なにとぞ……『AS』と『NG』を……お貸し下さい!」

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