第56話 鵺《ぬえ》!

 …………。


 ……さ……寒い……。


 ……なんて……寒さだ……。


 ……薄目が開いたので、瞼の隙間から周りを見回す。


 ……一面、真っ白……だ。 そして……所々ところどころ何かが光っている……。


 ……遠い昔の記憶が蘇った。


 お父さんとお母さんに、スキー場に連れて行って貰った事があったっけ。


 丁度、クリスマスの時期だったから、大きなツリーが飾ってあったな。


 ……お父さんもお母さんもニコニコ笑ってる。


 もう一人、一緒に笑っている人がいた。


 ……誰だっけ……。


 あ、もとむ伯父さんだ。


 俺、伯父さんが好きで、良くくっついてたなあ……。


 もとむ伯父さん……最近会って無いや……元気かな……。




 「法外ほうがいさん! 法外さん!」


 ……俺が目をけたのに気付いたのか、俺を揺さぶりながら大きな声をかけてくれている女性ひとがいる。


 ! こ、この声は!


 東矩とうがねさんだ……。


 涙がポロポロと流れた。


 涙で眼が潤ったからか、目がいた!


 血を流し過ぎたせいか、物凄く寒い。


 ……身体はまだ動かせないし、視界もだボンヤリしている。


 それでも、必死に声の方を見ると、俺を覗き込んでいるのは……


 間違い無い……! と、東矩とうがねさんだ!


「……と……かね……さ……」


 ……喉が乾いて、巧く喋れない。


 ……すると、東矩さんが、水を含ませてくれた。


 ……初めてあった日の、東矩さんの柔らかい唇の感触を思い出し、そこから芋蔓いもづる式に、記憶が蘇って来た。


 そうだ! 俺は、ある人に会うために、茨城県のある施設に向かい、鵜目さんの協力を得て通用門に向かったが、ナンバーキーが開かず、そこで出血して意識を失ったんだ!


 俺はその施設の『鵺頭ぬえがしら』さんに、会いに行ったんだ!


「ぬ……鵺頭……さん?」


「……はい!」

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