第52話 軌跡!

 近くの公園に駆け込み、急いで顔を洗う。 ……火照ほてった顔に、冷たい水が心地良かった。


 ……東矩とうがねさんの軌跡は判った。


 東矩さんが本当の報告書を書き終わり、ログアウトしようとしたと同時に、恐らく催眠術か、強力な『念動力』で操られたのだろう。


 彼女は、必死に……震えるほど抵抗したが抗えず『ひとまるまる』のサーバーに侵入し、俺たちの『骨導通信用データ』や、その他重要なデータを消去した後、俺の『調査報告書』を上書きした。


 ……しかし、東矩さんの人間離れした抵抗に根負したのか、東矩さんを操っていた力が緩み、ニセの報告書の後半は、完全に書き換える事が出来なかったようだ。 ……そして、エージェントに添付メールを送信した後、暫く東矩さんへの干渉を停止させた。


 その隙きに、東矩さんは必死で逃亡し……


『……法外さん! 聴こえる!?』 


 あ、浅利さんの骨導音声だ! 直ったのか!


「浅利さん、さっきは有難う。 お陰で東矩さんの行方が判ったよ!」


『……お疲れさま……有難う。 ……しかし、今はそれところではない』


「何を言ってるんだ! 今は何より、東矩さんの行方でしょうが!」


『……いや、東矩は『エージェント』だ。何時でも命を懸ける覚悟は出来ている』


 ……覚悟があろうが無かろうが、命に変わりは無い。 今、東矩さんを救う以上に重要な事があるものか!


『法外さん! 黙って俺の話を聴いてくれ……。 『特務機関九十九つくも』のデータを改めて精査したら、とんでもない事が判明した』


 ……とんでもない事?


『法外さん……今も鼻腔から出血してるか?』


 変な事聴くなあ〜


「いや! もう止まってるよ」


「良かった。 ……法外さんは、これまで本当に良くやってくれた、 心から礼を言う。 ……だから、後はオレたちに任せて、手を引いてくれ!」


 ……え! そんな……今更……?

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