第51話 真紅!

東矩とうがねさんが行方不明だそうですねぇ」


『ドクッ』……なんでこいつが知ってんだ?


 ……まさか……こいつらの策略?


「おや、法外ほうがい かけるさん……鼻血が出てますよ……何か変な事でも思い出しましたか?」


「……おい……お前……」


 ……や、ヤバい! 自分が抑えられない! 

イタチ! 逃げろぉ〜!


「ん? 何ですか? 色男……」


 ……その時、周りの景色が歪み、立って居られなくなった。


 俺だけじゃ無い。 地面は揺れていないのに『気』のような物が空間を揺さぶり、周りの人達がフラフラと倒れそうになっている。


 ……これ……もしかして……俺のせい?


 ふと見ると、イタチが慌てて自動車に乗り込み、走り去る所だった。


「は、早く、もっと俺から離れろお!」……と叫んで暫くすると、『気』の乱れが落ち着いた。


座り込んで、鼻にティッシュを詰めた俺の脳裏に、霧が晴れたように、はっきりとコンピュータの画面ディスプレイが見えた。


『調査報告書……東矩 祐希ゆうき


 ……! これは、東矩さんの『視点』……と言うか……恐らく『残留思念』だ!



『……『駆』本人の言によると、自分の『100%』は『じゃんけん勝負に敗退する』との事であった。 ……実は、我々は『法外』と言う名に記憶があった。……『駆』の叔父にあたる『法外 もとむ』は……不完全ながらも『予知能力』を有していた……


 本来であれば……『能力』を利用して、順調な人生設計が出来たであろう『駆』だが、現実には『じゃんけんに負ける』という事象のみに固執し、『能力』を利用することは無かった……


……『駆』が『能力』を利用しない理由として、以下の理由が考えられる。


1、『父の死』を本能的に察知し……(能力の)制限をしている。


2、『駆』の性格が、大きく関与している可能性がある。


 ……『駆』は『相手に対する慈悲』が、極端に強い ……例え憎しみの感情を抱く相手でも『その相手が悲しむ姿を見たくない』という情緒が強く働くようだ。


 以前、小官が狂言誘拐による実証実験を行った際にも、実行犯役の演者がどんなに憎々しげな演技をしてもなお『敗北行動』を選択していた。』


 ……そ、そうか……イタチ……さん……


 ……きっと、浅利さんが、俺の記憶励起の為に、わざわざセッティングしてくれたのか……。 


 お陰で、この『能力』が出現したよ。 ありがとう。


 ……更に読み進めると……


『一般人である彼に……協力を望むのは……問題有り……幸い、彼は小官に好意を抱いており』


 ……!


『……小官も彼に対して、少なからず愛情を抱いている……許されるものならば……彼との生活を選択したい……との希望がある。』


 ……


 …………。


 心臓を、強く握り潰されたような痛みが走った。


 この『報告書』を書いてくれた東矩さんの行方が判らなくなっている……その事が、俺の胸を締め付けた。


 ……?  頬に温かい物が流れ、『ポタ、ポタ』……と路面に音を立てて落ちた……。


 涙か……。


 ……! 白く乾いた路面をふと見ると、その涙は……『真紅』だった。 


 血の涙だ。

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