第3話

「・・・・・・さお、まさお、真青!」


 気がつけば寝ていたらしい。肩を揺り起こされて重いまぶたをこじ開けると、目の前できらりと光が舞った。視界いっぱいに広がる少女の顔に、「うおっ」と小さく悲鳴をあげて後ずさる。がん、と大きな音と共に後頭部に鈍い衝撃が走って、俺は頭を抱えてうずくまった。なににぶつかったんだと後ろを振り返ると、分厚いガラスとその向こうに広がる景色が目に飛び込んでくる。がたん、ごとん。不規則なその揺れは、俺の頭を冷静にさせた。夢じゃ、なかった。


「かぐや」


「だ、大丈夫? 真青」


「大丈夫・・・・・・」


 確実にたんこぶができたであろう後頭部をさする。そうだ、俺はこの宇宙人を名乗る不思議な少女と夜行列車に乗っているのだった。


「ここ、どこ?」


 どれくらい寝ていたのだろう、窓の外を流れる景色は都会のそれだった。夜空で光り輝いていた無数の星たちは光を失い、代わりに街には人工的なネオンがきらめいている。まるで星が地面に堕ちたようだなんて、そんなことを思った。


「さあ、わかんないわ」


 かぐやは無邪気に答える。聞いた僕も正確な答えを期待していたわけではなかったので、「そっか」とだけ答えて窓の外に目をやった。きっと、遠いところまで来てしまった。


 お母さんは心配しているだろうか。塾に行っていたはずの息子が行方不明になったのだ、もしかしたら警察が動いているかもしれない。一度睡眠をとった僕の頭はすっかり夢から覚めてしまっていて、一度家族のことを考え出してしまえばえもいえぬ不安が襲ってきた。


 ふと、隣に座るかぐやに目をやる。宇宙人の生態はよく知らないけれど、彼女にだってきっと家族はいるはずだ。


「かぐやは一人で地球に来たの?」


 そんな僕の言葉に、かぐやは目を瞬かせた。


「そうよ」


「どうして?」


「どうしてって?」


「家族はどうしてるだろうって、心配になったりしない?」


「しないわ。家族から逃げてきたのよ、私」


 そう言った目がとても冷たかったから、僕はそれ以上踏み込むことができなかった。その代わりにふっと笑う。


「大規模な家出ってわけだ」


 かぐやも笑う。


「そうね!」


 そうこうしているうちに、夜行列車はスピードを落としてどこかの駅に止まった。駅名を見ると路線図で見た覚えのある名前だった。終点まであと三駅、といったところだ。


「もうそろそろで終点だよ」


「海が近いの?」


「いや、海はまだ遠いよ。あと二回乗り換える必要がある」


 そう言うと、かぐやは面倒くさそうに顔をしかめた。


「それってあと何時間くらいかかるのかしら」


「うーん・・・・・・三時間くらい?」


 なにぶん前に海に行ったのが十年くらい前のことなので正確なことは分からないが、多分それくらいだろう。僕の言葉に、かぐやは「海って遠いのね」と息を吐いた。

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