7 黒狐の主人
「もうすぐ着くか?」
「うん。すぐそこの大きい施設が例のそらり児童養護施設だと思うよ。ほら、ちゃんと書いてあるよ。ここで間違いないみたい」
2人は児童養護施設の門のところにレンヤは立って、ソラはレンヤの足元に座って中を覗いていた。
「黒狐はどこだ?」
「うーん。どの子だろう?」
「どうだ?いるか?」
レンヤはスマホを取り出すと昨日の夜のうちに咲楽に頼んで送ってもらっていた黒狐が取り憑いている少女の写真をソラに見せていた。
「この子が黒狐の主人の
「そうだな。偏見は良くないが、両親がいないようには見えないな。お金持ちのカッコいい父親に優しい母親の子供って感じだな」
「うん。こっちより向こうの住宅街に住んでいそうな感じがする」
このあたりは高級住宅街で立派なお家が並んでいるのだ。その中にこの施設だけが浮いてる感じなのだ。なぜこの場所に児童養護施設は建てられたのか不思議な感じがする。
「あっあの子じゃない?」
ソラは目的の人物を発見した。その子は児童養護施設の砂場で小さい子の相手になって一緒に遊んであげていた。
「どれだ?あぁあれか。確かにあの子が桜田鈴で間違いないだろう」
「どうするの?」
「さぁ?どうするかな。さすがにこのまま入ったらまずいだろうな」
「うん。たぶん、通報されると思う」
「その言い方はさすがの俺だって傷つくぞ」
「レンヤはそんなこと気にしてないでしょ」
「まあな」
「今のこの状態も危険だと思うけど?大丈夫なの?レンヤみたいに見るからに怪しいくて危なそうな人がこんなにずっと児童養護施設を覗き込んでて。しかも、黒猫と会話してるような危険人物だよ。通報されるの確定だよ。むしろされなきゃおかしいレベルだけど」
「さすがに失礼すぎるが。まあ、その点は安心しろ。認識阻害をしてある。人払いのようなものだが。誰にも俺のことは認識出来ないようになってる」
「なるほど。抜け目ないね。というか、それって自分が人から危ない人認定されるのを自覚してるってことだよね。だったらなんとかしたらいいのに」
「はぁ?何か言ったか?」
レンヤは聞こえていたのに聞こえないふりをしているようだ。あまり触れられたくない事なのかもしれない。
「何も言ってない。それより、どうするの?」
「そうだな。ここに来る正当な理由って何かあるか?」
「正面から入るつもりなの?」
「それ以外あるか?」
「うーん。まあないかな。正面から入るとしたら、やっぱり里親になりたい人だけじゃない?それか従業員として働くとか?」
「それは時間も掛かるしめんどくさいな。だとしたら、里親の線しかないか?」
「でも、レンヤが里親になりたいって言って信じてくれる?僕だったら絶対断るよ」
「まあ確かにな。俺でもそうするだろうな。誰かの親になるって柄でもないしな。見た目が信用出来ない。大切な子供を託したくなるような雰囲気ではないだろうな。むしろ、逆だろうな」
「そんなに自分の事悪く言わなくていいんじゃない?」
「お前も言ってただろうが」
「人から言われるのと自分で言うのは違うと思うけど。まあ、僕は人じゃないけど」
「ねぇ、あなた達何者なの?私を殺しに来たの?」
レンヤとソラがどうやって中に入ろうかと話していたら、突然どこからか声が聞こえてきた。
その声に驚いてソラは辺りをキョロキョロと見回していたが、レンヤは一点に彼女、桜田鈴の事を見つめていた。
だけど、鈴は相変わらず小さい子の相手をして砂場で一緒に楽しそうに遊んでいてこちらを見ている様子はない。
「お前、桜田鈴か?どうしてこちらの存在が分かる?誰にも俺たちの事は認識出来ないはずだが」
「彼らにはニオイで分かるんです。ちなみに私にはあなた達のことは認識出来ていませんよ。彼らに教えてもらっただけなので」
凛としていて落ち着いたそれでいてどこか優しさのある綺麗な声で鈴はそう言った。殺しに来たのかと聞いたということは殺される可能性があると考えているはずなのにその声には怯えがなかった。
「彼らとは黒狐の事か?」
「えぇ。そうです」
「どうして俺たちが殺しに来たと思った?」
レンヤに先程までの砕けた雰囲気はなく、真剣な顔をしていた。相手が敵か味方か判断のつかない今、レンヤは警戒するように鈴から目を離さず見つめたままだ。相手が何かをしたらすぐに動けるようにしているのだろう。もしくは、目を離せないのかもしれない。
なぜなら、彼女の言う彼らとはおそらくレンヤ以上だから。
さっき、一瞬だけ見せたあの気配はレンヤの想像を遥かに超えていた。そして、一匹ではなかった。
「私を狙っている人物がいる。そんなときにここに現れた人物がいる。しかも、ただの人間じゃない。だとしたら、それを私の命を狙いに来た人物だと思うのは当然じゃない?」
「それで、俺たちは味方だと言ったら信じるのか?」
レンヤはかすかに額に汗をかいてそう慎重に聞いた。もし、ここで信じないと言われたら戦いになる可能性があるからだ。
「いいえ。味方だという確信は出来ません。ですが、まあ敵というわけではないような気がします」
少しの沈黙のあと、鈴はそう答えた。
「そうか」
レンヤはその答えを聞いて肩の力を抜いた。いつ戦いになるか分からない状態でずっと肩に力が入ったままだったのだろう。
「ここには入ることが出来ないので、また改めてお話しませんか?」
「まあこんな奴入れるわけないよな」
「まあ、確かにそれもあるのですが。問題は別にあるんです」
「そこ、否定しないんだな。お前もなかなか失礼な奴だな」
「それより、あまり長くは話していられないので。明日、私の学校の通学路に来てくださいませんか?今日と同じように認識阻害をして」
「それよりってなんだよ。まあいい。分かった。じゃあ、明日行くよ」
「あっそれと、明日はあなた一人で来てくれませんか。黒猫ちゃんがいると気づかれてしまう可能性が高くなってしまうので」
「えっー僕だけお留守番なの?」
「しょうがないだろ」
「まあ、確かにそうだけど」
ソラは不貞腐れたように下を向いてしまった。
「終わったらちゃんと話してやるからいいだろ」
そういうとレンヤは不貞腐れてしまったソラの頭を撫でた。
「うん。分かった。大人しくお家で待ってる」
ソラは大好きなレンヤに撫でてもらえて少しは機嫌を直したようだ。
「ふぅーん。意外と優しいのね」
「あん?なんか言ったか?」
レンヤは褒められるのには慣れていないからついついそんな言い方になってしまうらしい。聞こえないふりをしてしまう癖があるらしい。
「じゃあ、明日の夕方通学路で会いましょう。ここは危ないから早く帰ったほうがいいわよ」
鈴はそんなレンヤのことは無視してそう言った。
「分かった。じゃあ、明日な」
そう言うと、鈴の忠告に従い早々にレンヤとソラはここを立ち去った。
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