6 事務所に戻る
レンヤはソラから黒狐がどこにいるか分かったと連絡をもらい、咲夜のマンションから事務所に戻っていた。
事務所は咲夜のマンションとは対照的にボロくて何もないシンプルなコンクリートだけの作りだ。
レンヤにとってはこのボロさとシンプル、簡素な感じのほうが落ち着くのだ。
あの豪華で高級な感じは好きではないのだ、
別にレンヤがお金がないからこのボロい雑居ビルの3階に住んでいるわけではないのだ。十分過ぎるほどもらっているはずなのだから。
仕事の内容が内容だけに給料はなかなかいい。命の危険もある上、特殊な力を持っていることが求められる。そんな人間はなかなかいない。だからこそ、相当な金額であるはずだ。その上、この仕事には国が関わっているとも言われている。
「見栄ばっか張りやがって。もっと大切なもんがあんだろうが」
レンヤは自分が住んでいるビルを見上げて、苛立ちを隠さずそう呟いた。自分が住んでいるビルを見ると、咲夜が住んでいるあの豪華さで武装して本当の自分を覆い隠している偽りだらけの姿を思い出してしまうのだろう。この無駄のないシンプルなビルを見るとあの無駄だらけのマンションが、咲夜自身を表しているように見えてしまうのだ。
レンヤは本当は大切なものを持っているのにそれに気づかない咲夜のことが、もどかしくて仕方がないのだろう。
「黒狐の居場所が分かったって言うのは本当か」
階段を登る間に気持ちの整理をしてから、レンヤは扉を開けた。レンヤは事務所の扉を開けて入ってくるなり、ソラに向かってそう聞いた。
「うん。たぶんだけどね。宮司さんがそうじゃないかって」
ソラはレンヤが帰ってくるのを聞いてすでに事務所の前で待っていて、入ってくるなりレンヤの足元にまとわりついていた。体をレンヤの足にこすりつけスリスリしてレンヤが帰ってきたのを喜んでいた。早く褒めて欲しいのだろう。
「あの神社の宮司か。じゃあ、間違いないだろう。住所も分かっているのか?」
そんなソラのことを構うことなくレンヤはソファに座ってしまった。
「うん。隣の町のそらり児童養護施設ってところにいるみたいだよ。レンヤ、なんか変だけど何かあったの?」
「別に何もない」
「そう?それで、どうする?今日はもう遅いから明日の朝にする?」
「そうだな。そうしよう」
「分かった」
「さすがだな。ソラ。いつもありがとうな」
そう言うと、レンヤは隣に座っているソラのことを抱っこして自分の膝の上に乗せて優しくなで始めた。
「どうしたの?やっぱり変だよ。レンヤ」
レンヤに大人しく抱っこされて膝の上で丸くなったソラはレンヤの顔を見上げて、心配そうにそう聞いた。
「なんだ。やめて欲しいのか?だったらやめるが」
いたずたっ子の笑顔でレンヤはそう言った。でも、いつもの悪い嫌な感じの笑顔ではなくていつもより弱くて優しい感じの笑顔だった。
「ううん。嫌じゃない」
ソラは慌ててそう言った。折角、珍しくレンヤが撫でてくれるのだから何があろうとその機会は逃したくないらしい。
「レンヤの方は何か収穫あった?」
ソラはレンヤに撫でられて幸せそうな顔でそう聞いた。
「あーまあな」
「ん?どうかした?もしかして何も収穫がなかったの?だから、そんなに元気がないの?」
「そんなわけないだろ。だが、それは今は話せない。時期が来たら話す」
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