5 夢

電車に乗るとレンヤはある人物の元に向かった。

そして、電車を降りその人物の住むマンションに向かって歩いて行った。そのマンションに着くと迷うことなくエレベーターまで行きエレベーターに乗り最上階のボタンを押した。

レンヤが入っていったのは高層マンションと呼ばれるようないかにもお金持ちが住んでいそうなところだった。その最上階ともなればさらに凄そうだ。

そんなところに臆する様子もなくいつもの上下黒のお世辞にも綺麗だとは言えないような服装で入っていくのだからレンヤはレンヤは何というか、ダメな方に凄い。

最上階の一室の前に来るとインターホンを鳴らした。

「入るぞ」

扉が開けられるなりそう言うとズカズカと家の中に入って行った。出てきたのは銀縁のメガネを掛けてラフなポロシャツにジーパンのインテリっぽい感じの男だった。

「レンヤ。相変わらずだな。連絡してから来るという発想はなかったのか」

突然、入ってきたレンヤに驚くのではなく呆れて、ズカズカと自分の家に入っていくレンヤの後ろ姿を見送っていた。

「俺がここに来ることは予想がついていただろう。だったら必要あるか?」

「まあな。さっき妹から連絡があった。お前から電話があったって。確かにお前が次に俺のもとに来るだろうと予想はついていた。だからと言って無断で人ん家に来る奴がいるか。まあ、いつものことだがな」

「そんなことよりどんな夢を見たんだ?また見たんだろ。それで俺にあんな命令をした。違うか?」

レンヤは咲夜の言うことには耳を貸さず、自分の家のようにズカズカと入っていきソファに座って行儀悪く、体を咲夜のほうに向けてそう何かを企むような嫌な笑顔でそう聞いた。

「まあ。そうなんだが。その態度では話す気にならないよ」

咲夜は呆れてため息をつきながら、レンヤの向かいのソファに腰をおろした。

「いいのか?俺が帰って。お前だけではどうにもならないから俺を頼ったんだろ?」

レンヤは足を組んで相変わらずの嫌な笑顔で前のめりになってそう言って咲夜を煽った。

「はぁーー。やっぱり、レンヤを頼るべきじゃないかったかな」

咲夜は自分の感情を吐き出すように長いため息をつくと、そう呟いた。

「なんか言ったか」

レンヤはそう言って目にかかった白い髪の隙間から咲夜のことを睨んだ。なかなかに目つきが悪いからなかなか様になる。というか、結構怖い。

「いいや。なんでもない」

「なら、早く話せ」


「九尾の狐」

咲夜はたっぷり間を開けたあと、うつむいたままそれだけを呟いた。そして、反応を見るように少しだけ上を向いてレンヤのことを見た。

「九尾の狐?あの日本三大妖怪のか?」

レンヤは驚くというよりは信じられないと言った感じだ。

「あぁ。そうだ」

「本当にあの九尾の狐なのか?何かの間違いなんじゃないのか?」

「間違いない、と思う。今まで僕の予言が間違っていたことはなかっただろう?」

「まあ。そうだな」

「残念ながら、そういうことなんです。信じたくないのは僕も同じですがね」

「だが、九尾の狐は封印されているはずだろ?」

やっと、レンヤは真剣な顔になって咲夜の話を聞く気になったようだ。

「殺生石になって栃木県にあるらしい。その封印を解くものが現れる」

「それで?どうして黒狐を探せと俺に言ってきたんだ?」

「どうやらその黒狐の主人に当たる人物がその九尾の狐に狙われているらしいんだ。それにその人物は九尾との戦いの中で我々の味方になってくれるとの事なんだ。だから、なんとしてもその人物を手に入れたい。今回だけでなく今後の我々にとって必要不可欠な存在となるらしい」

「そう、あの女が言っていたのか?」

レンヤは咲夜の言葉にムカついているようでトゲのある言い方をした。何か納得がいかない事があるのか気に入らないことがあるようだ。

「えっ?まあ」

レンヤのトゲのある言い方には気が付かず、曖昧な返事をした。

「お前の予言はあの女からのお告げ、なんだろ。予言だとか予知夢だとか回りくどい言い方はやめろ。カッコつけたいだけなんだろ。自分は凄いと思われたいだけだろ」

「凄い人たちに囲まれて、自分は何も持っていない。そのくらいいいじゃないですか!力を持っているあなたには分からないんだ!何も持っていない僕のことなんて。少しくらいウソついたってバチは当たらないでしょう?」

咲夜は勢いよく立ち上がり、珍しくレンヤに向かって大声で怒鳴るようにそう言った。最後は誰にも聞こえないようなか細い声で呟いて力なく足から崩れるように座り込んだ。

「お前にはお前にしか出来ないことがある。それじゃダメなのか?俺に出来る事とお前に出来ることは違う。比べるなんて間違ってる」

咲夜の事を真っ直ぐに見つめて、優しい声でそう言った。まるで、子供に接するように慎重に優しく。

「そう出来れば楽なんでしょうけどね。子供の頃から君には敵わなかった。大人になって僕は警察官になってキャリア官僚になり、君に勝てたと思った。でも、違った」

咲夜は俯いて蚊の泣くような声でそう言った。今にも泣いてしまいそうな声だった。

「その話はやめよう。俺が悪かった。余計な事を言った」

「このことを知っているのはあなただけだ。あなただけがその事に気がついた。よりにもよってあなただけが。どうしてなんでしょうね。あなたにだけはバレたくなかったのに」

「この俺にウソが通じるわけがないだろう。俺にバレないと思っていたなら、俺を舐め過ぎだ」

「あはは。確かにそうですね」

乾いた声で笑ったあと、咲夜は力なくうなだれた。

「それで、あの女は他に何か言ってなかったのか?」

「あの方は気まぐれですからね。他には特には。また気が向いたら教えてくれるかもしれませんが」

「そんな受け身でいいのか。いくら神憑きと呼ばれているからって俺らと神は対等な関係でいいはずだ。どちらが上とか下とか関係ない。共に利害はあるはずだ。だから、一緒にいる。お前だって同じはずだ。何、好き勝手やらせてるんだ?」

「対等?そんなわけないじゃないですか。向こうが圧倒的に上ですよ。下手な事出来るわけないですよ。食い殺されかねない。君みたいにはなれない」

咲夜は不貞腐れたようにレンヤから顔を反らした。

「ふんっ。まぁ、いい。また何かあったら連絡しろ」

今度はレンヤは咲夜に呆れたようだ。そして、そう言い残すとレンヤは家を出ていった。

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