4 桜田門

「咲楽か。黒狐を知っているか」

レンヤはねぐらにしている事務所を出て駅に向かって歩き出した。そして、歩きながら幼馴染でもある刑事に電話して、挨拶もなしにそう切り出した。

「黒狐?狐ってあの狐?」

「あぁ。そうだ。何か知らないか?」

レンヤは急かすように言った。

「さあ?聞いたことないけど」

「そうか。ならいい」

落胆した様子もなく冷たくそう言うとレンヤは礼も言わずに通話を切ろうとした。

「あっちょっと待って。黒い狐については聞いたことないけど、警察で今話題になってることが少しあるんだけど」

「なんだ?」

「最近、なぜ犯罪を犯したのか分からないって供述する犯人がいるの。しかも、何人も。そして、その人達は皆、白い狐を見たと言っているわ。もしかしたらこの事件はあなた側の存在が関わっているのかもしれないわ」

「もしかしてその白い狐に操られて犯罪を犯したと言うのか?まあ確かに狐は人の心を操るのを得意としている。出来ない話じゃないかもしれないが。もしそれが本当ならかなりの力を持った存在だろう。それに、そうなると狐だけではないかもしれないな」

「どういう事?」

「狐が妖怪の類なら本来の力を引き出すのに人間の力を必要とする。もしくは、人間が狐を利用していることも考えられるが。そうなるとその狐以上の力を有して居なければ食い殺されるだけだ。狐が人間を利用している可能性のほうが高いか。人間は器にちょうどいいんだ」

「やっぱり今回もあなた側の存在が関わっている可能性が高いようね。もしかして、今回も彼からの依頼なのかしら?」

「まあそんなところだ。だが、依頼じゃなく命令と呼ぶんじゃないか。こういう場合」

「でも、あなたはあなたの興味を引くような事がなければ断るでしょ?たとえ自分の上司からの命令、であろうと。だったらそれは依頼じゃないかしら。なぜなら決定権はあなたのボスにあるのではなくあなた自身にあるのだから」

「ふんっ。そんな事はどうでもいいだろ」

「ってことは今回の件はあなたの興味を引く事件だったってことよね。ってことは厄介なことになりそうね」

そう言うと咲楽はレンヤにも聞こえるような大きなため息をついた。

「咲夜の奴もそう言ってたからね。100%面白くなりそうだろ?」

レンヤは新しいおもちゃを見つけた子供のように楽しそうに笑って咲夜に同意を求めるようにそう聞いた。

「兄がそう言っていたなら必ずそうなるわね」

咲夜は子供のように笑っているレンヤを想像して諦めたように、レンヤには聞こえないようにため息を再びついた。

咲夜はレンヤのボスであり、咲楽の兄でもある。

「その白い狐の絡んだ事件について詳しい情報をメールで頼む」

「分かったわ」

咲楽の返事を聞くか聞かないかのところでレンヤは電話を切ってしまった。

そして、レンヤはやってきた電車に乗っていった。


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