3 宮司さん
「今度は宮司さんか。さすがに建物の中には入れないし、どうしよう」
さっき宮司さんと会った鳥居の前も見に行ったが、さすがにもういなかったようだ。それでソラは引き返して建物の方を見て回るようにしたようだが似たような服を着た人ばかりで遠くからでは誰が誰だか分からないようだ。
そんなこんなしているうちに段々日が傾いてきてしまっていた。この大きな神社の建物を見て回るだけで結構な時間が掛かるのだ。
「おや、また会ったね。ソラくん」
全然見つからず途方に暮れていたソラの背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「まだここに居たんだね。彼女には会えたのかい?」
「はい!主様には会えました。でも、今は宮司さんを探してたんだ」
ソラは勢いよく振り返って元気よく返事をした。やっと会えてソラはとても嬉しそうだ。
「おや。僕に用かい?一体、どうしたんだい?」
ソラが自分を見るために上を向くとほぼ直角になってしまうから、宮司さんはソラの首が痛くならないようにしゃがんでソラの顔を見て意外そうにしていた。
「僕、レンヤの手伝いで黒い狐を探してるんだ。それで、主様に知らないか聞きに来たんだけど詳しいことは知らないから宮司さんに聞くといいって言われて」
「おや。彼女がそう言ったのかい?珍しいことがあるもんだね。僕は彼女に認められていると思ってもいいのかな」
ソラの話を聞いて宮司さんは何やら嬉しそうに手水舎の方を見て笑っていた。
「あっあの。それで、宮司さん。知ってるの?黒い狐の事。主様が言うには狐憑きの一家がいたけど全員死んじゃったって」
「あぁ。ごめんごめん。あの家族のことじゃな。覚えているよ。確かにあの家族は立て続けに娘、両親となくなっておる。でも、確かあの家族には末の娘がいたはずだよ。その子が亡くなったと言うのは聞いておらん。だから、生きているはずじゃ。ソラくんはその黒い狐を探しているんだったね」
「うん」
「だったら、その子のところに言ってみるといい。狐憑きは家族に引き継がれるものだ。もちろん狐憑きにも色々あるから一概には言えんが、もしその家族が狐を封じる為に狐憑きなっているのであればその黒い狐はその子が継承している可能性は高いであろう」
「ふぅーん。分かった。それで、その子は今どこにいるの?」
「今は隣の町のそらり児童養護施設にいるはずじゃ」
「ありがとう。宮司さん。でも、その狐強いんだよね。その女の子大丈夫なの?」
「まあ。そうじゃな。普通ならまともな精神状態ではいられんじゃろうね。でも、その子が何か問題を起こした話は聞いたことがないからね。きっとその子も普通ではないのだろう」
「その子自信に力があるからその狐を抑えることが出来てるってこと?もし、その子に力がなかったらどうなってたの?」
ソラは恐る恐ると言った感じで小さな声でそう聞いた。
「もし、その子に力がなかったら。それはじゃな。その狐に内側から食われてしまうのじゃよ。そうして狐はこの世に解き放たれ自由になる。彼らはいつでもその機会を狙っている。だから絶対に油断してはならない。もし、少しでも彼らにスキを与えてしまったらその瞬間に殺されてしまう。それで、その女の子の姉は亡くなったのだと聞いておる。お前さんも気をつけたほうがいい。彼女が必ずしも味方とは限らない」
宮司さんもソラと同じように、まるで誰にも聞かれてはいけない内緒話をするように小声になっていた。
「うん。分かった。気をつける」
ソラは宮司さんの忠告に神妙な顔でうなずいた。
「それに相手は狐だ。人の心を操るのが得意なんじゃ。十分気をつけるんだよ」
「うん。ありがとう。じゃあ、もう行くね」
「あぁ。くれぐれも気をつけるんだよ。じゃあ、また来ておくれよ」
「うん。また来るよ。じゃあねー」
優しく手を振る宮司さんにそう返すと、ソラは走って鳥居の方に向かって走っていった。
すでに日は沈みあたりは暗闇に覆われていた。
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