第3話 sideクリストフ

「え?」

キャロラインの言葉に被せるように呟いた私の言葉に、彼女は困惑を見せていた。

「いや・・・あー・・・」

とりあえず、私は口を閉じることにした。

───ん。あれを知られたくはない。いや、知られては駄目だろう。というか、私は今告白をされたのか?最初はたぶん違ったよな?どこから・・・

そこまで考えて、顔を上げればキャロラインが不安そうな表情をして、此方こちらうかがっているのがわかった。

「やっぱり、ご迷惑ですよね」

「‼そんなことはないっ!」

不安そうなキャロラインの言葉に、私は慌てて被せ気味に言った。

そんなわけないだろう。むしろ、私は好意を抱いている。最初こそ情欲ではあったが、彼女の好意に私は嬉しく思っているのだから。迷惑なんてことは、ありはしない。

「いやな。城を追い出された理由が少々気になってな。君のその後を考えたら穏便というわけではないのだろう?」

繕う意味がなかったとは言わないが、少々気になっていることを聞くことにした。

城を追い出された後、飢えかけていたというなら、それなりの理由があったのだろう。仮にも、侍女長を務めた程のものが、職に就けないとは思えない。まぁ、彼女の資質の問題というのも考えられなくもないが…

「…僕はおとぎのネコワンダーキャットの姫の怒りを買いました。それは、僕自身が原因ではない。そう、僕は思っています」

キャロラインはそう前置きをして、話だした。私は、少しだけ聞いてしまったことを後悔した。彼女の話は、とても話にくいと思われる内容だったからだ。

「僕の姓は、キャピタルと言います。既に忘れられて久しい、おとぎのネコワンダーキャットの始祖の血を継ぐ直系です。

現在の城の主である姫は、始祖の直径ではなく、傍系にあたります。姓は、ベローナ。

僕は、直系であることや傍系であることを気にしたことはありませんでした。僕自身は、姫のことを好ましく思っていましたから。でも、姫は違ったのでしょう。だから、たぶん始まりはそこからでした。

姫には婚約者がいました。キツネの亜人です。つがいだという話でした。

ただ、キツネの亜人は特殊で、つがいをただ一人としない数少ない種族なのだそうです。姫もそれを承知しているのだと言っていました。婚約者の方も、姫はつがいを唯一としていることを承知しているのだとも言っておられました。

どこまでは本気なのかわかりませんが、あの時までは姫の周りに手をだしていることはなかったと把握しています。

その最初が僕でした。姫の婚約者は、前触れもなく僕の私室へ現れました。…そこから先は、僕にとって地獄でした。床に組み敷かれ、体中をいじられ…衣服も破られました…」

キャロラインはそこまで言って、震えを抑えるように己自身を抱きしめている。肩が少し震えているようにも見えた。

「話にくいことなら…」

「いいえ。話させてください。多分、僕は何があったのかを誰かに知っていてほしいのだと思うんです」

彼女は、瞳に力を籠め私を見据え、小さく吐息をこぼし再度話始めた。

「最後の一線は超えられていません。いれられる直前で、姫が乱入してきましたから。でも、姫は僕の味方ではありませんでした。

姫は、僕の話も聞かず、僕が悪いのだと喚き散らしていました。僕が婚約者に色目を使ったのだと。そう言って、有無を言わさずに僕は城を追い出されたのです。

それから僕は、働き口を探しましたけど、名前を告げるとどこも慌てたように追い出されました。恐らくですが、姫たちが手を回したのだと思います」

そう言って、キャロラインは話を終えた。肩の震えは収まることなく、今なお震えているようだった。

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