7、話題(後編)

「いただきまーす!」「いただきます」「いただきます……」


豪華な食事、とてもじゃないが3人分とは思えない量が用意されていたが、ヒコルとベルンはミリアの食べっぷりを知っている存在、今更驚くことはなかった。


しかしまさか、ミリアとベルンが師弟関係だなんてヒコルは思いもよらなかった。ヒコルは頭の中がそればかりだったので質問したいことだらけだった。


「えっと、先生なんで叔父さんの弟子なの? 先生になるなら騎士にはもう……」


「ただ住みついてるだけだ。実際は師弟関係はもう終わってる」


「そういう言い方ないじゃない。住みついてるって……、自分一人じゃ何もできないくせに何言ってるのよ!? 今朝だって私が早番だったからヒコルくんの家にお邪魔になったんでしょ?」


「そ、それを言われると……」


「叔父さん、先生に支えられて生きてるの……?」


「そ、そういう言い方するなよ。毎日仕事で疲れてんだよ……」


「え~騎士団は普段は暇でしょ? 暇すぎて疲れてるのぉ」


「違うわバカ。巷で噂になってるスライムマンとかいうモンスターの捜索をしてるんだよ。騎士団みんな」


「あぁ、今朝言ってた……」


「何よ、スライムマンが何かしたの?」


「騎士や魔導士たち、その他多くの者に危害を加えた、悪人とはいえ、な。さらには騎士団の仕事まで奪いやがって……」


「何よそんなことでくだらないわねぇ」


「くだらないだと……!?」


「スライムマンはスライムマンなりに世の中を良くしたいだけじゃないの。それを仕事が奪われたなんて被害妄想抱えて、スライムマンより有能になってから文句言いなさいよ」


「人の気も知らないでペラペラと……、あのモンスターの神出鬼没さと事件現場を先回りする俊敏さを知らないから言ってるんだ!」


「知ってるわよ。だって私、毎日のようにそのスライムマンと会ってるんだから」


「はぁ!?」


「ミリア先生……」


「どういうことだミリア、そのモンスターをなぜ捕獲しないんだ!?」


「彼をモンスター扱いするのはやめて! 立派な人間よ!!」


「ひゃ、百歩譲ってそうだとして......、なぜ俺や騎士団に言わないんだ!? そいつの正体は!?」


「さすがに正体は知らないけど……、自分の信念のために一生懸命戦ってるのよ! 何でそんな人を騎士団が捕まえるのよ!?」 


「ちょっと、やめてくださいよ......!」


その後二人の喧嘩は収まらず、ミリアとヒコルが家から出ることになった。


町が見える少し高台の夜の景色を眺めながら、ミリアはため息をつく。


「全く、これだから次男坊は大人じゃないのよねぇ......」


(主語がでかいなぁ......)


「ごめんねヒコルくん、お母さんとの喧嘩をどうにかするって話だったのにこんなことになっちゃって......、大人気なかったわ」


「......あそっか、一応相談に来たんでしたよね自分」


「何で忘れちゃうのよ」


「だって先生と叔父さんが師弟関係だったことにびっくりしすぎてそれどころじゃ......」


「『それどころじゃない』ねぇ......、本当に?」


「そ、そりゃあもちろん」


「私、君には健啖家ってこと教えた覚えなかったけど」


「ええと......、そう! クラスメイトたちが先生の食いっぷりのこと言ってたから......」


「私がスライムマンと繋がりがあることも驚かなかったんだ?」


「え......、あっ! それはその......、僕はスライムマンがどうとか興味ないですから......」


「ふーん。ま、そういうことにしといてあげるわ」


ホッと胸を撫で下ろすべきなのか......、ミリアの謎の視線はその後の解散まで尾を引いていた。


30年近く生きておいて、ヒコルはようやく人と接することは面倒臭く、難しく、それでも時には心地良いものだということが分かった。


さよならの彼女の言葉に惹かれ、また聞きたいと思うくせに、今度会う時の言葉が重く感じてしまう。


(俺は彼女のことが好きなんだなぁ。色んな魅力を見てきたし、空振ってても努力家で......、普通はここまで親身になってはくれない)


ヒコルは、後ろにいるミリアの顔を見ることもなく、早足で帰って行った。


(でも、彼女が好きなのは俺じゃない......、スライムマンだ。俺が俺として魅力を伸ばさなければ彼女に振り向いてもらえない。いや下手をすると生徒と教師の時点でもう......)


ヒコル、いや富彦はかつてない恋の焦燥感を味わうことになった。

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