7、話題(前編)


スライムマンの噂は周りから聞こえてくるばかり、もちろんヒコルの家でもそれが話題になるわけで、特に上げているのがヒコルの叔父、ベルン・クミンだった。


ある朝起きたヒコルは、食卓にいたベルンとセイヤの話を少し遠いところから聞いていた。


「ねぇねぇ、オジサンはスライムマンに会ったことあるの?」


「ないよ、あったらとっ捕まえているに決まってる!」


ベルンはヒコルたちとは別の家で過ごしている。弟子と一緒に住んでいるらしいが、たまに弟子の早番により朝食を作ってくれないことがあるので、こうしてたまに朝から会いに来てご飯を頂くことがある。


「なんでつかまえるの~?」


「なんでって、悪いことしたら捕まえるもんだ。セイヤも悪いことはするんじゃないぞ」


「は~い」


「わ、悪いことですか……? 一体何が」


少なくとも自分は悪いことをしたつもりはない。何故そんな印象になっているのか、ヒコルは確かめずにはいられず話に参加した。


「おぉヒコル起きてたか。あのスライムマンってのは俺たち騎士の仕事を妨害してる。そして何より、聞いた情報からして得体がしれない。モンスターの一種なら捕獲しなくちゃいけない」


「そ、そうなんだね」


ヒコル、というより富彦はやはり……、という気持ちもあった。


この世界では言わないが、いわゆるアウトローというのだろう。騎士団という民を守り秩序を守る自警団という存在がいる以上、スライムマンという存在は確保する対象であることは間違いない。


それでもヒコルは止めるつもりはなかった。それは単に、スライムマンという実験を止めたくなかったのだ。


「それよりヒコル、お前お母さんとは元通りなんだろうな?」


「も、元通り……?」


「その様子だとまだって感じか、まったくしょうがないやつだな。よし、クミンお前今日の夜は空いてるか?」


「え……、まあ夜なら」


「君に会わせたい人がいる、その人に協力を仰ごう。晩飯も私が用意する」


そんな約束を交わしてヒコルは学校へ行った。授業も、魔導士見習いの皆や騎士見習いの皆とも特に問題なく事を終えた。


一つ気になったことがあるとすれば、生徒たちがスライムマンで話題だということだ。


「何者なんだろうねぇ、会ってみたいわぁ」


「そういえば騎士団たちが、スライムマンの正体は普通にこの町で生活している人かもしれないって言ってた!」


「え、そうなの?」


「何でも彼の活動時間が、夕方くらい。休日に指定されやすい日にちは日中でも活動してるんだって」


「ちょっと待って、じゃあスライムマンは私たちみたいな学生かもしれないってこと?」


「……あ、ありえないよそんなこと」


「ヒコル……?」


「スライムマンはモンスターさ、そんなやつが普通に生活できると思えないきっと……、夜行性なんだよきっと」


「そうなんだ、さすがヒコル、頭良いやつはそこまで推測できるんだ」


「じゃあ俺、もう帰るよ」


放課後、いたたまれなくなったヒコルは教室から出るが、その出入口にはミリアがいた。


「今の話興味深いわね、あなたみたいな子でもスライムマンに興味あるのね」


「ひどいな、僕を何だと思ってるんですか?」


「ごめんね、そういう言葉を返せるなら元気ね。どう、例のお母さんとは?」


「あー……、それがまだ……」


「だと思ったわ。この後私の家に行かない? そのことについて話をしましょう」


「いやそんな……、教師が生徒を家に誘う? そんなこと良いの?」


「なあに? 何かやましいことでもあるの?」


「いや……、あぁていうか夜には用事が……」


「大丈夫よ、夜までには終わるわ」


「そ、そう……。なら……」


そして時間が経って、ミリアの家に着いた。


「ここよ、入って」


「おじゃましま……」


「おかえりミリア、うちの甥が来る前にご飯の準備を……、ヒコル!?」


「おじさん!?」


「うふっ……、あっははははは!!」


「ミリア……、確信犯だな」


「だって、こんなことないじゃない! ベルンさんの甥っていうからつい……」


「あぁ、まさかとは思ってたけど君とヒコルに面識あるとは、だって君非常勤だろ?」


「あの……、一体どういうこと?」


「あなたベルンさんの普段の生活知らないの?」


「確か弟子と一緒に生活してるって……、え!? それが先生だったの!?」

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