6、課題(前編)
「な、何だお前は……!?」
「……スライムマン」
少し悩んだ結果、ヒコルはそう口に出した。
ヒコルはスライム状の左腕を伸ばし、男が無理矢理掴んでいた魔導士の女の身体にくっつけ、そのまま引っ張って引き剥がした。
「きゃっ!?」
ヒコルは特に何も言わず、そのまま最後の男の顔にめがけて少量のスライムを投げつけた。
「うわっ!? 何だこれ、ベトベトして取れねぇ!」
顔にかけられたが、かろうじて見えた視界からは、ただただ威圧を発するヒコルの姿しか見えず、男は恐怖しそのまま逃げて行った。
「……大丈夫?」
「ひっ……! 助けて!!」
声をかけたが、魔導士カップルすらも恐怖して逃げて行ってしまった。
「……まあ良いか」
「良くはないでしょう」
茂みに隠れて声を出して現れたのは、かつてスライムマンとして助けた初めての人間、ミリア・ハルフリートだった。
「ど、どうして君がここに……?」
「それが私の生徒……、あ、私非常勤教師なんだけど、フリッシュ学園の生徒が森へ入って行ったって連絡をもらったから気になって見に来たの。見てないかしら?」
「あー……」
フリッシュ学園の生徒だと証明する勲章付きの上着を着たまま森へ入ってしまった、つまりその生徒はヒコルであることは間違いないだろう。
移動中に脱いで木の上にかけっぱなし、そこは問題ないだろうが、この教師は見つかるまで探しそうだ。
「少し素行の悪そうな少年だったね、実力が知りたいって気持ちだったんだろうけど危ないからね、帰してあげたよ」
まるで自分のことを言ってるような気分だった、誇張した自虐で少し悲しくなるヒコルだった。
「そう、ありがとう。あの時と同じ、また私を助けてくれたわね!」
爽やかな笑顔でそう言い、ヒコルとの距離を近づける。
「さっきの見てたけど、ほぼ無口で怖かったわよ? もう少し喋ることができないの? 私の時みたいに、でないと不気味よ?」
「そ、そうだね……。でもどんな言葉をかけるべきか分からないんだ」
「そうなの、じゃあ何で私に対してあんな言葉をかけられたの?」
「そ、それは……」
その理由を言ってしまったら、自分がヒコルだということがバレてしまう。どう誤魔化そうか、さすがに誤魔化すためのひき出しが空っぽだった。
「君が……、心配だったから」
「……! そ、そう……、なるほどね……」
素の答えを返してヒコルは少し恥ずかしくなったが、ミリアも少し照れていた。
「じゃ、じゃあ普通に皆に心配してあげたら良いんじゃない? あと、助けた人は直前まで怖い思いをしたから、明るい言葉をかけてあげるのが良いと思うわ」
「な、なるほど……、お喋り好きであるのが良いのか……」
「そうね、そのくらいのほうが可愛くて良い。せっかく声色は若いんだからそう、親愛を込めて……」
「親愛を込めて……?」
「そう、隣人みたいに!」
「隣人、はは……」
そのフレーズにヒコルは苦い顔のまま硬直していた。
「こうしましょう、私はあなたに良いお喋りの仕方を教えるわ」
この世界じゃコミュニケーション能力とは言わない、言いたいことはそういうことなのだろう。
「その代わりこの前言ってた魔法のこと、教えてほしいな」
「な、なぜそこまでしてくれるんだ?」
「それは……、あなたが心配だから。ふふ」
不意に少し可愛いと思ってしまうヒコルだった。
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