4、開戦(前編)


魔導士が得意な盤上ゲームの一つ、ストレインというチェスのようなゲームが、この世界に存在する。


ストレインの圧倒的特徴は、詰むべき王様を探さないといけないことだ。


駒に魔力を注ぎ込み、一つだけ魔力の印をつける。それがつまり王様、印のつけた駒が落ちると点滅した光が出る。王様が落ちた側、あるいは持ち時間を使い切った側が負けとなる。


落ちるというのは、単純に駒同士の戦いで負けたことを表わす。駒が相手の駒を攻撃するのはチェスも同様、だが気を付けなければならないのはその駒に注いだ魔力で勝負して、魔力が切れた駒が負け、落ちるということだ。


つまり注いだ魔力の大小次第では返り討ちに遭う可能性もあるということだ。だから単純に魔力の配分も重要になる。決められた量の魔力の中から駒に配分をする、駒を使って削られながらも王様を見つけ倒すという、ダウトの要素もある心理戦が行使されるものだ。


魔力を用いた複雑な盤上ゲーム、これに対して騎士見習いが不満に思う要素は頭脳戦というのもそうだが、魔力の操作と感知という繊細さが求められることだ。それらが乏しいと、駒の魔力の大小の区別がつかないことになったり、さらには印をつけた王様も操作で隠せずバレてしまったりする。


対する騎士が得意な木毬競技は、ウィザルドというドッチボールのようなスポーツだ。


ウィザルドがドッチボールと違う要素は、仕切り線がないことと、チームが存在せず一人の敗北者が決まるまでやることと、木毬というボールのようであってボールでないものを使うことだ。超至近距離から木毬を投げて当てることも、投擲に自信があるなら遠くから投げても良い。


避けても良い、受け止めても良い、投げるという動作の前に駆け引きが行われ、更には投げた木毬に魔力を注げば、自由自在に操作することもできる。木毬の操作は騎士見習いでも容易にできる仕組みになっている。操作することで注いだ魔力が消費される。


当てられた者が鬼として木鞠を持ち、誰かに当てるまで離せない。タイムアップ時、木毬を持っていた者が負けだ。


この競技に対する不満は、身体を動かすという魔導士の苦手要素が含まれるからだ。体力と魔力の消耗が激しく、とても魔導士が最後まで活きることはない。


この二つのゲームを、ヒコルは混ぜようと言っているのだ。


「ルールはこうだ。ステージはストレインと同じ8×8のマスの舞台をこの広場でつくる、そして駒の代わりに自分たちが出る、いわゆる団体戦だ。だからマスの大きさも人間1人余裕で入るくらいのを用意しないとね。1人1人が持つ魔力で勝負するから上限はないね、そして1人だけ王様である印をつけておくんだ。だけど駒の数と同じ16は人が多すぎるからそうだな……、6人にしよう。その6人の中から1人、指示をするリーダーを決めて、基本他の人たちはリーダーの指示通りに動くこと。そこは団体競技そのものだから分かりやすいでしょ? ターン制で、持ち時間で話し合ったりリーダーに指揮権を委ねたり、好きにして良いよ」


「なるほどな。だがその駒同士の戦いはどうやって決めんだよ、ストレインなら駒同士コツンとぶつけてだったよな?」


「そこで木毬を使うのさ。攻撃する駒が木毬を投げて、当てられた駒、そして魔力が切れた駒は落ちる、ということにしよう」


「ほう、確かに木毬を投げる程度ならお前らも問題ないしな」


「ちょっと待てよ、アタックする時って実際は至近距離じゃねぇか! まずいだろそれは!?」


「まあそれは避けられないだろうが、もっと効率良く行こう。一マス移動するかその場からボールを投げるか決められるんだ」


「魔力を注いだ木毬を投げる時、その時の魔力の配分はどうすんだ? 全力を出して駒を落としても、実質魔力切れで相討ちになってしまうぞ?」


「そこは自由にして良いよ。手加減するか全力か、うまくいけば魔力が削れはすれどお互い生き残る可能性がある。あ、生き残るっていうのはゲーム的な意味だよ」


「狙われる側はどうすれば良い、ただ受け止めたり魔法障壁で守るとかか?」


「そうだねあと一つ言えることは、そのマスから動かないこと」


「は?」


「駒だから当然だよ。でも避けるのはありだよ、というよりそれが一番だと思う。魔法障壁で守るのも良いけど避けるほうが魔力が削れることはない」


「なるほど、意外とお互いの良い要素が重なってるわけか……」


「敗北条件は、王様が落ちることと持ち時間を使い切ることだ。他に聞きたいことがないなら、実際に始めても良いかな?」


正直、混ぜただけでそう上手く行くものなのか……、とお互いが思っている。だが騎士見習いはウィザルドの要素を、魔導士見習いはストレインの要素に自信がある。得意な要素が活きつつ苦手な要素がほとんど消えている。


そして何より皆は、やってみたいという気持ちが強かった。両者に異議を申す者は出ず、勝負をすることが決定した。


まずはそれぞれのチーム同士で練習を一回挟んでから、代表者を選んで作戦を決めた後、本番を開始することにした。


このゲームには本来なかった審判が必要になる、そこは教師にお願いすることになった。というよりこの騒ぎ自体、教師が黙って見ていられるものではなかったのだが、生徒たちが大人の力を必要とせず自ら解決していこうとする行動、そして実際そのゲームがどんなものになるかの好奇心が働き、教師たちはただ見届けることになってしまう。


そしていつの間にか体育祭のような大きなイベントになってしまい、校長先生が司会を務めてしまうほど事が大きくなってしまった。


「この勝負、私の監視の下行うからには不正は許さない。若い力を見せつけて、この時代を変えてみよ! 名付けてストレイン・ウィザルド、開始!!」

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