第27話 天秤

もうすぐ会える嬉しさともうすぐ離れる寂しさを秤ににかけたら、どっちに傾く?


馬鹿だなぁ。今まで会える距離にいても会えなかったのに。

離れてるのは時間のほうだった。


頭では、正しい選択をしているとわかっている。

その正しい選択が、正しくない可能性があることもわかっている。

私が選んでいるのは、満たされた人生が送れる可能性が高い道だ。

人によって、何に満たされたいかは違う。


私は?

私は、自分で自分を満足させたい。

精神的にも経済的にも誰にも依存せずに、大切な人を守れる力が欲しい。

そうしたら、寂しさや物足りなさはなくなるのかはわからないけれど。



「気をつけてな」

踏切があがって、Mは振り返らずに歩いていく。

Mがもう一度、振り返っていたらきっと私は泣いていた。



電車の中で、ぼんやりと、Mの家まで通った夜を思い出した。

小さなソファで抱えられながら観た映画

一緒に組み立てたIKEAの家具

自然と涙が零れていた。



今も。










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