第26話 ある日の記録

夜中にふと目を覚ますと、Mは抱き枕よろしく私の背中にくっついて寝息を立ており、私を覆うように伸びたMの左手は私の右手と恋人のように繋がっていた。

私はなんとなく、その右手の様子が不思議で寝ぼけながら開いたり閉じたりしていると、Mが目を覚まして、「どうしたん?」と言う。

「なんでもない」私が答える。

「まだ寝とき。」と私に腕枕してる方の手で頭をポンとたたく。


前日の夜、寝室はもう暗くMは先にベッドに入っていた。私が布団に潜りこんだ気配を察知したのか、Mは腕枕の用意をする。私はMの肩のくぼみに頭を置くのが好きだ。

「足、冷たいなあ」

「あっためてよー」調子に乗って私が足を絡ませる。

「いったん、のけよか」

「なんでよー」と言いつつ、想定内なので素直に従う私。

すでに眠りに入ろうとしているMの呼吸に合わせて、私も呼吸する。

一体化して夢の中へ入り込んでいく感覚がして、好きだった。


目覚ましが鳴り、目を覚ます。Mの夢を見た気がする。隣で寝る時はMの夢をよく見る。そういう時は必ず、「Mの夢見たー」と報告する。Mも寝ぼけながらも必ず「どんな夢?」と聞いてくれる。でも大抵は忘れているのだ。


着替えて簡単なメイクをして、まだ起き上がる気配のないMに声をかける。

「時間だから、もう行くよ」

「え、もうそんな時間なんや」

「そうだよ」

目を閉じたままのMの横顔に顔を近づける。

「ねえ、送別会してよ」

「送別セックス?」

「寝ぼけてるね」

「俺と、誰呼ぶ?」

私たちに共通の友人と呼べる人はいない。いつも2人だけだった。

「あと2週間だよ」

「すぐやな。」

「すぐだよ。」

乗る予定の電車の時間が近づき、私は立ち上がる。

「忘れもんせんとってな。ピアスとか」

「しないよ。もうつけてる」

「気いつけてな。また連絡する」

「うん、じゃあね。」


いつも、これが最後かも、と思って会いに行く。

でも、結局まだ最後が来るのを私は拒んでしまうのだ。












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