第25話 同級生 タカシの話

タカシとは33歳の時、中学の同窓会で再会した。

交際のきっかけと言えば同窓会が鉄板だ。それを目的にしているわけではないにしろ、どこかで皆、何かを期待している部分はあるだろう。


幹事の頑張りに対して盛り上がりに欠けたカラオケ大会となった二次会が終わり、三次会では小さなスナックに行った。

タカシは私の隣に座っていた。彼は県内で一番の進学校から旧帝大へ行き、業界最大手の広告代理店へ就職するというエリートコースを歩んでいた。広告代理店の営業というだけあって、口の上手さとチャラさは流石のものだったが。


深夜のテンションとアルコールの効果で、私たちの話題はこれまでの恋愛遍歴について話が広がっていった。

「結婚しようと思ったことはないの?」私が訊いた。

「あるよ。29の時。すごいお嬢様で性格のいい子だった。」

「めっちゃいいじゃん。なんで別れちゃったの?」

「やっぱり、住む世界が違ったかな。俺は所詮、田舎から出てきた成り上がりだから。むこうの親に会った時、そんな風に見られてることをヒシヒシと感じちゃったんだよね。だって、彼女が車の免許取ったら、親にBMポンと買って貰ってるんだぜ。」

「やば。」

「そんな世界で生きてきててさ、俺が今必死で働いて得るお金がどんなものかっていうのが理解出来るのかなぁって」

「まあ、確かに・・・」

「それに、本当にいい子だったんだよ。その周りの人たちも。その中にいると、俺がどす黒い生き物に思えてきてダメだったんだよね。この人達はずっと恵まれた環境にいて苦労知らないから、こんな風にいい人でいられるんだろうなって、どうしても思っちゃって。」

「いや、タカシ君は十分凄いからダメだなんて思わないでよ。塾も同じだったしさ、昔から勉強頑張ってたの知ってるもん。こんな田舎から有名企業に入ってさ。なんで同じ中学で同じ先生から勉強教わってたはずなのにこんなに差が出るんだろうね。タカシ君がダメなら私どうなんのよー」ハハハと笑ってタカシの腕をバシっと叩く。

「…みつきだって、二次会のカラオケ、先陣切って歌いにいってたじゃん。幹事、助かったと思うよ。そうやって気を使える人だって、見てる人はちゃんと見てるよ。いい子だなって。」

タカシの言葉に不覚にもぐっときてしまう私。そんなこと、誰にも言われたことなかった。タカシはただチャラいだけの男じゃないのかも知れない。


それから、お互い上京組ということもあって3か月~半年に1回位のペースでご飯を食べに行く関係が続いたが、変化が訪れたのは2年ほど経った時だった。


タカシが車を買い替えるとのことで、いつも車で出かけていたのだが代車の手配が間に合わなく、その日は渋谷で飲みに行くことになった。

タクヤは1軒目でワインボトルを1本一人で空けるほどハイペース飲んでいた。


3件目のダーツバーでタカシは隣に座って、私エリアの背もたれに腕を回す。

自然と私は姿勢を正す。

「みつき、可愛くなったね」

「何言ってんの。酔い過ぎたんじゃない?」

タカシの様子にまんざらでもなくなる私。

ドキドキするのは酔っているせいか?

平常を装ってウーロン茶をストローで吸いこむ。

「いや、ほんと…」

タカシは言いかけて俯き、少し沈黙すると

「…や、やっぱいい、酔ってない時言うわ。」

「な、気になるじゃんー!」

なんだか、予感がして、続きが気になるドラマみたいなそんな感じ。

でも、私のいけないところ。完結済のドラマは結末をWikiってから観てしまう性格。急いては事を仕損じる典型。つまるところ、『酔ってない時』が来る前にいたしてしまった。

だって、ほぼ告白予告じゃん??これって。そう思ったんだもん。


そして、タカシは本当に、酔ってない時に告白してくれた。ちゃんと。

2週間ほど、恋人みたいなLINEを続けてたある日。

夜に、迎えに行くよって代車のテスラで1時間かけて来てくれて夜のドライブをして、地元の言葉でたわいのない話をした。

そして、自然とそのままタカシの家へ。

スウェットに着替えてリビングに戻るとタカシは自分の部屋だというのに居心地悪そうに三角座りをして膝の上に顎を乗せている。大きな体を小さくさせてなんだか可愛い。

「どうしたの?そんなんなって。」

タカシは目線を落としたまま喋りだす。

「あのさ、俺一人っ子だけど両親まだ現役で仕事してて元気だし、まだまだ介護の心配とかないし、俺ブランドとか好きでよく買っちゃうけどそれなりに稼いでるほうだと思うし。あと、あえて言うと仕事で海外行きたくて希望出してて、もしかしたら来年行くかもしんない…です。」

「うん。」

「…で、まあ何が言いたいかと言うと、好きです。」

私は小さくなっているタカシを抱え込むように抱き締めて、

「…嬉しい」と言った。


次の日の朝。

休日出勤だというタカシの車で最寄りの駅まで送って貰った。

タカシが美味しいとおすすめのパン屋さんに立ち寄ったりして。

帰りの電車でタカシにLINEをした。

『送ってくれてありがとう、昨日は嬉しかった。私、タカシの彼女になったってことだよね?』





・・・1週間既読がつかなかった。



WHY?



「それさあ、死んでんじゃないの?1回家行ったほういいよ」

「両手両指骨折したのかも。」

「いや、まだ足の指があるでしょ。」

「じゃあやっぱ死んだのか??」


好き勝手言う友人たちの言葉をよそに私はさよならのLINEを送った。


男は女を手に入れれば、すぐその女に退屈するものだから。byココ・シャネル


正当な出会いと手順を踏んだと思ったのに、なんなん?

まじで男ってよくわからん。












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