第22話 とある御曹司、トモキの話
ユウイチを忘れるために、私は婚活パーティーに参加した。
欲望丸出しで、年収1千万以上のハイクラスの回。男性陣は40代が多かったが、IT系、商社、広告代理店、一級建築士、などなど職業だけは立派な方々が集まっていた。
私はその中で、年齢が近かったトモキと後日会う約束を取り付けた。トモキの父親は関西地方に本社を置く企業の社長で、地方都市の一等地の地主でもあった。トモキ自身は公認会計士で、全身ヴィトンで身をつつみ、いかにも二代目御曹司という出で立ちだ。
金に目がくらんだ、、と言えなくないこともない。
トモキから一週間後に予定した食事の場所を共有するメッセージが届いた。ホテルの高層階にある鉄板焼きの店だ。テンションが上がる。
続けて、ポコン、とスマホが鳴る。
“もし時間があるなら電話しませんか?”
トモキは結婚願望がかなり高いようで、事前に価値観の共有をしておいた方がお互い時間を無駄にせずに済むから、という理由で電話をかけてきた。
はじめは他愛のない話だった。お互いの仕事のことや趣味のことなど。ありがたいことに、私がバツイチだということにも寛容だった。雲行きが怪しくなってきたのは、結婚相手の条件についてテーマが移ったときだ。
「みつきちゃん、俺の理想にめっちゃ当てはまってんねん。」
※お気づきだろうか?私の出会う相手は関西の人が多いということに。関西弁フェチであることは否定しないが、私の記憶だよりのため作中はエセ関西弁になっていることをご容赦ください。
「えー!嬉しいけど、何がですか?」ちょっとぶりっ子して聞いてみる。
「俺、結婚の条件4つあって。まず1個目が、料理できる人。いや、毎日じゃなくてええねん。週に3日くらいで、あとは外食でもお惣菜でもいい。ただ、子供に家庭の味っていうのを覚えて欲しいなって思って。みつきちゃん、旦那さんにいつも料理作ってたんやろ?」
「作ってましたよー!良かった、毎日って言われたらちょっとプレッシャーだけど、そのくらいなら全然料理しますよー!」
ズボラ妻だった私だが、料理だけは私が担当していたので嘘ではない。トモキの言う家庭の味を子供に覚えさせたいというのは、確かに共感できる。うんうん、全然料理しますとも!
「2つめが、家計を任せられる人。全然、エステとかランチとか行ってもええねんで?でも俺の給料まるっと預けるからにはちゃんとした金銭感覚の人がやっぱええな。みつきちゃん一人暮らし経験も長いし奨学金も完済したって言ってたし、なんか浪費家ではないような気がする。」
「(貯金もないけど)確かに借金もないし、給料の範囲以上にお金を使うとかはないですね。」
うんうん、金銭感覚大事。前夫は収入以上に支出がある人だったが、それゆえ私がお金の管理をしたいと申し出ると猛反発してきたので、ずっと財布は別だった。家計の管理を任せてくれるというトモキの方が好感が持てる。
「3つめが、四大卒。ほら俺って早稲田やん?で、次期社長やからお付き合いで奥さん同伴でパーティーとかあんねん。いろんな人に会った時、恥ずかしくないように教養みたいなんはあって欲しいから最低限四大出てればいいかなって。」
う、うん?うん。まあそうか、お金持ちの世界は良くわかんないけど、そういうことならそうなのか。
「そうなんだー…、で、4つめは?」
「4つめ!実はこれが一番重要やねん。身長!みつきちゃんのプロフィール見た時にキター!って思ったやんか。身長162㎝が俺にとってのベストやねん。」
「身長ですか?女の人が男の人の身長を条件にするのはよく聞きますけど、男の人がっていうのは珍しいですね。」
「俺182㎝あるんやけど、20㎝差が丁度ええんよ。…夜の相性の。」
悪寒が走った。顔も引きつった。でも電話だからトモキにはもちろん伝わらない。私の表情がわからないトモキは話し続けた。
「ほら、身長差あると出来ひんプレイがあるやろ。やっぱりそっちの相性って大事やん。」
「ま、まぁ男の人ってそういうの重視するんでしょうね・・・あはは」
離婚理由1位の性格の不一致は、実のところ性の不一致である説も聞いたことあるし、実際のところ重要視する人もいるだろうが、ほぼ初対面のまだ関係が構築出来てない段階で、思ってても言わないような下ネタを口にしているトモキにドン引きしていた。
その後、深夜のテンションなのか調子づいたトモキの下ネタは止まらない。婚活で出会った7人中5人と関係持ったとか、それがどんな感じだったとか、どんなのを希望しているとか、ストレートに書くことは出来ないので自主規制。
なんとか話しを切り上げて電話を切った私は、「初めての電話でこんなに喋ったの初めて!めっちゃ盛り上がったし相性ええんちゃう?!」と宣ったトモキとは正反対のテンションだった。
翌日、斎藤さんにトモキとの電話の内容について相談した。
「きっっっも・・・!!」と一言。
「ですよね・・・。なんか、次の土曜日、会うの嫌になってきました・・・。」
「てか、ホテルに入ってるレストランって言ってたよね??なんか流れやばくない?実は部屋とってる・・・とか言われたら!」
「・・・!やばいです!」
「みつき、酒にも押しにも弱いじゃん。大丈夫?」
「会うのやめます!断ります!」
私はとうの昔に亡くなってるおじいちゃんをもう一回亡くなったことにして、しばらく葬儀のため地元に帰ることになったとトモキに断りのLINEを送った。
おじいちゃん、ごめんね。でも孫の危機だから見逃して。
トモキからは“会えなくなったのは残念やけど、ご両親大変やと思うから寄り添ってあげてな。”と常識と思いやりに溢れた言葉が返ってきたから、ちょっと申し訳なくなったけど、しょうがない。
そうこうしてフェードアウトしようという作戦だったが、トモキからきっちり1週間後、メッセージが来る。“地元から帰ってきた?そろそろご飯どうですか?”
私 “帰っては来てるんですけど、風邪を引いてしまって…”
トモキ “疲れが溜まってたんかもね。お大事に。”
そしてさらに1週間後…
トモキ“風邪治ってるよね?そろそろ会えるでしょ?”
…ここまでか。普段関西弁の人が標準語使うときはやや怒っている時だ。※完全に私見です。
フェードアウト作戦失敗。ここは1度相手側の要求を呑むことにしよう。私はディナーでもランチでもなく、お茶を提案した。さくっと会ってさくっと帰るために。
ここで婚活ポイント。アプリなどで初めて会う時はお茶!短時間でお互いの人となりを見れるしタイパとコスパが良いのた。逆にいきなり夜飲みを誘ってくる人はヤリモクの可能性も高いので注意(もちろん全部がそうとは限らないが)。夜飲みの際は近くにラブホがないか駅から離れてないかもチェックすべし。
トークが苦でなければランチが一番おすすめ。いいなと思ったら、“さっきランチ出して貰ったから、お茶ごちそうさせて下さい♡”と言って誘えるからだ。
ないな、と思ってもランチくらいなら費やしたお金と時間に後悔を持つことは少ないだろう。ちなみに婚活での割り勘問題に関して、私の場合はないと思ったら自分の分は払って帰ることにしている。奢って貰うと断りづらくなるからだ。あると思ったら、素直に奢って貰う。そうしたら上述の『次は私が作戦』が使えるようになるのだ。
と、言って見たものの、トモキとお茶した帝国ホテルのケーキとシャンパンセットの会計は彼に払って貰った。まあ、領収書切ってたし大丈夫だろう。
一方的にトモキがしゃべり続けていてどっと疲れた。ずっとニコニコうんうん聞いていたせいで、マスカラは下瞼に滲むし前歯は乾くし首がもげそうだ。
次の日からはトモキからの俺日記や次の食事(これまたうかい亭やらロブションやら高級店)、はてには新幹線の日時やホテルまですべて計画済みの旅行のお誘い攻撃が始まった。頃合いを見て、私はこうメッセージを送った。
私 “お誘いありがとうございます。でも、住む世界が違う人だな…って思えてきて…。トモキさんにはもっと私なんかよりも釣り合う方がいると思います。ごめんなさい。”
トモキ “ちょっと格好つけようと思っただけで、みつきちゃんがいいなら吉野家でもココイチでもいいんやで”
いや、うかい亭からの吉野家、ふり幅ありすぎん?
今も時々思い出す。彼は結婚出来たのかな。
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