第19話 出会った人の話 ユウイチ編③

 ユウイチからの返信は思ったよりも早かった。

内容も、潔く妻子がいることを認めて謝罪の言葉もあった。


 ところがどっこい。

ここで素直に身を引けないのが私である。

 なぜなら、私は夫の不倫により離婚している。私は身をもって知っているのだ。

不倫は心の殺人だと。

 それに、ユウイチはこれまでアプリで出会った人の話をおもしろおかしく今まで話してくれていた。仕事で47都道府県巡る企画があった時、ご当地風俗嬢47制覇した話もあった。独身だったらギリセーフと思って聞いていたエピソードが一気にヤバいやつに変わったのだ。

 ここで大人しく身を引いたら、こいつは何も変わらない。こんな奴を野放しにしたら被害者がどんどん増えてしまう。

 流れる涙と共に、謎の正義感が私の中で芽生えていた。私はこう返信した。


「で、どうしてくれるの?」


 私はかつて、2ちゃんの修羅場まとめサイトを読むのを趣味としていた時期があり、そこで培った知識をフル活用することにした。

 つまり、貞操権の侵害で慰謝料を請求することにしたのだ。

そしてこれは身を守るためでもある。不倫の慰謝料は発覚から3年有効なのだ。ここで大人しく身を引いて、私前を向くわ…!とラインも写真も全部消したところで、もし相手方の奥さんが夫の不倫の事実を知ってしまったら?自分の潔白を証明するものが何もない状態では慰謝料を請求されてしまう可能性がある。それを防ぐためにも、きちんと公正証書を交わした上でユウイチから慰謝料をとらないといけないのだ。

 金銭的にも労力的にもユウイチが痛い目を見ることで、少しでも改心するのであれば、私が傷ついたかいもあるということだ。このくらいの復讐はしたって当然のことだ。


 私はすぐにネットで弁護士の無料相談を予約することにした。法テラスのおじさん弁護士は大人しく身を引くように諭してきたけど、このおじさんも不倫してるのかな?と思った。切り替えて相談にいった新宿の弁護士さんは、私とユウイチのライン履歴を見ると、「あー、これアウトっすね。慰謝料とれますよ。」とお墨付きをくれた。ラインの緑の吹き出しには、彼女はずっとおらん。とか、仕事いつ辞めるん?俺が働くから家でのんびりしてたらいいのに。とか、結婚したいと思ってる。とかそんな将来を匂わせる甘い言葉が山ほどあったからだ。


 目安の慰謝料金額を教えて貰った私は、それをユウイチに伝えた。

「実は、みつきちゃんの前だと見栄張ってたけど自由に出来るお金なくて…」

私の前だと仕事人間で自身満々だったユウイチ。とたんに小さく感じる。

「いくらならいいの?」

「…これくらいなら1か月あれば用意出来ます。ほんとにごめんなさい。」

 まだユウイチに好きな気持ちが残っていた私は、ユウイチの提示する金額で合意した。甘いなあ、私。

「公正証書を送らないといけないから、自宅の住所教えて欲しいんだけど。」

「ごめん、本当に勝手なことはわかってるんやけど、自宅じゃなくて会社に送ってくれへん?妻を傷つけたくないんです。」

「…わかった。」

私のことは傷つけてもいいの? 浮かんだ言葉を飲み込んだ。


なんか。なんかなんか。不倫されて別れて欲しいと言われた私。不倫されても傷つけられないユウイチの奥さん。何が幸せなの?世の中茶番なの?


わからなくなってきた。







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