第18話 出会った人の話 ユウイチ編②

おかしいな、と思ったのは付き合って3か月経った頃だった。


電話に出てくれない

土日に会ってくれない

何より、家に連れて行ってくれない


職場で経験豊富と噂の斎藤さんに相談してみることにした。

斎藤さんは、自身の性を追求するのに凝っていた時期があり、自分の性癖がSなのかMなのか確かめるために、緊縛のプロがいると聞いては縛られに行ったり、ハプバーで裸のおじさんをヒールで踏んでみたり、女性用風俗にトライしてみたりと常人はなかなか経験できない領域を知っている。

今思えば斎藤さんの専門分野は違ったかもしれない。が、斎藤さんは的確に回答してくれた。


「SNS探偵してみな」

「え、でもなんか彼のこと信用してないみたいで嫌なんです。。」

「おかしいなって思ってる時点で一緒だよ。あのアプリってface bookと紐づいてるんだよね?今時身辺調査をSNSでやるなんて普通じゃない?何にもなかったらそれはそれで安心できるじゃん。」


内心、SNSチェックをしたかったが我慢していた私を肯定するかのような斎藤さんの言葉は、私のSNS探偵力を目覚めさせることになった。


まずはfacebook。本名でヒット。仕事関連の記事にいいね!が1件のみ。ほとんど更新がなく、ただ登録しただけのアカウントのようだった。

少しだけ安心する。名前や仕事に嘘はなさそうだ。

次にインスタ。インスタの話を時々していたので確実にアカウントはあると思っていたが、本名での登録がなかった。以前していた話を思い出す。

「タトゥー入れるならなんて入れる?」

「えー考えたことない。ユウくんは?」

「おれ、自分のイニシャル気に入ってるからUSって腕に入れたい。」

USで検索してみると、本名をアルファベットでアナグラムしたものを見つけた。

間違いなくユウイチのアカウントだったが、非公開で見れず。

行き詰った私は、ユウイチに兄がいたことを思い出す。

「確か、シンイチロウ、だったかな…」

ユウイチの苗字はちょっと珍しい。お兄さんの名前をフルネームで検索したところ簡単にヒットした。しかも、鍵はかかってない。

ひとつひとつの画像を開いて、コメントまでチェックしていく。

すると、ひとつのアイコンに目が留まった。この柄どこかで見たような…

「ユウくんがこの間送ってくれた朝ごはんの写真に写ってたランチョンマットの柄だ。」

そのアイコンの主のアカウント名は、ユウイチと同じ苗字だった。

「まてまてまて…確かお姉さんがいるとも言ってたし確定するのはまだ早い…」

好きだったゆえ、現実を受け入れられない私。

ランチョンマットアイコン主のアカウントも鍵がかかっていてそれ以上は追えなそうだ。

「そういえば、友達にカメラマンがいるって言ってた。確か名前が…」

カメラマンならば仕事用として確実に本名かつ全公開アカウントを持っているはず。

案の定ヒット。ありがとうございます。フォロワーもフルオープンだ。

フォロワーのリストの中にUSもランチョンマットアイコンも発見した。しかしこれではまだ弱い。100人以上はいるフォロワーの中からカメラマンと同じ苗字の女性を見つけたので、そのアカウントに飛んでみたところ、こちらもフルオープン。

子育て日記アカウントのようだ。その中に、友人家族と庭でバーベキューしたという写真があった。その中で焼き鳥を焼く、その腕に見慣れたブレスレット。ユウイチが肌身離さずつけているものだ。ランチョンマットからコメント。

「今日は家族揃ってお邪魔しましたー。子どもも楽しそうで良かったよん♪♪」

コメントのテンションとは裏腹に、血の気が引いていく。悲しみと怒りで涙が出てきた。衝動的に私はユウイチにラインを送っていた。


「奥さんと子供いるのに隠して私と付き合ってたの?」







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