第10話 私の誕生日
まー君は私のために積み立てを3つしてくれていた。
1つめは結婚記念日、2つめはクリスマス、3つめは私の誕生日用だ。
2人でちょっと良い雰囲気のレストランに行ったり、旅行するための資金にしてくれていた。
まー君が中国に行ってしまったので、私はその年の誕生日は1人で過ごすことになった。29歳なるという20代最後の年のスタートだったので感慨深く、特別なこともしたかったがしょうがない。
私はせめてと思い、誕生日の前日、少しでも若い私を目に焼き付けて貰おうとまー君にスカイプしたが、やはり例のごとく不通に終わった。
朝起きると、まー君からスカイプでビデオメッセージが来ていた。
「今年は誕生日祝ってあげられなくてごめんな。」といった内容で、まー君の表情は暗く申し訳なさそうで、口調も重いものだった。
私は違和感を覚えた。
もし逆の立場だったら私ならこう言う。
「まー君、誕生日おめでとう!一緒に過ごせなくて寂しいよ~!でもお仕事だからしょうがないよね…体無理しないで頑張ってね☆大好きだぞ♡」と。
ここまでじゃなくても、一緒に過ごせなくてもお祝いの言葉くらいは言えるだろうに、何度再生しても“誕生日おめでとう”の一言もなかったのだ。
私は何かのスイッチが入り、まー君にスカイプ通話をかけた。
出ない。その日は日曜日だったからまー君の仕事はないはずだ。
現地時間は朝の七時半頃だった。
私は、まー君が電話に出るまでかけることにした。
身支度中も通勤中もひたすら鳴らし続け、やっと出たのは鬼コール開始から2時間後、私が売り場の朝の清掃中、試着室にこっそり隠れてコールしている時だった。
「ちょっと今上司とゴルフにきてるから!!」
第一声がそれだった。ちょっと焦っているようだった。
「日曜なのに?こんな朝早くから?」
「ゴルフってそういうもんじゃねーの?上司待ってるから切るぞ。」
この時点で私のまー君を怪しんでる度は10パーセントくらいで、ちょっとおかしいなと思ってもまー君を全面的に信用していたし、ゴルフだというのも彼が言うのだからそうなのだろうと自分を納得させた。
人生の転換期となる29歳の始まりだった。
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