三本目 トラウマ
光希君の席は私の斜め前。何故か近い。私はチラチラこっち見て笑っている不真面目な光希君に内心イライラしながら視線を外していた。彼は暇なのだろう。ノートもまともに取らないで。私は一生懸命追いかけてるっていうのに、一生懸命になってるのが馬鹿らしい。でも、それが彼なりの交友なら、とても申し訳ない。そもそも田舎者が都会に来るなら都会に配慮しなければならないし、彼が悪気があってやってきているとは思わない。寧ろ、彼は優しい。ただ、タイプではないだけなんだ。ヘラヘラしてて腹立たしい。そう思ってしまうのはまだ中一の頃が原因。
あの頃の私はとにかく恋人がほしかった。人肌が恋しくて誰かに求愛していた。その時付き合った先輩は都会の人でとても慣れていた。思わせぶりなことはするし、ヘラヘラ笑って私と付き合っても女友達と遊びに行くような人だった。それでも私は慣れた用意されたシチュエーションにドキドキして彼の思い通りに動いていた。初めての彼氏はそんな、嫌な奴だった。それでも私は我慢していた。
なのに、
「なにこれ?」
私があげたクリスマスプレゼントを彼は見ながら行っ見ながら言った。
「ま、マフラー……。手作りなんだけど…嫌、だった?」
「嫌ってか〜ババァ臭え?っつうかなんかダサくね?」
その時、私の中で何かが弾けた。彼のために服だって思い切って良いのを買った。お弁当だって毎日早起きして作った。マフラーだって!時間を削って作ったのに。私は彼と別れた。私から言ったのに彼は興味なさそうに「あっそ」と言って別れた。
しばらくして私はだいぶ落ち着いた。のに、あいつは……
「よぉ?新しいカレシはできたか?」
あいつは、別の女と密着しながらそう笑ってきた。その女子は女性みたいに美しくて、泣きそうになったのを覚えてる。
あぁ、あんなヤツ大ッ嫌い。
光希君は空いている時間よく私に話しかけてくる。ノート写させてとか、いつ渋谷いく〜?とか、そんなことを適当に話すだけ。ヘラヘラして、私を見てる。光希君はあいつより優しい。でも、どうしても光希君があいつみたいに見えて腹立たしい。私は光希君を嫌いになりそうだった。
「美咲ちゃんって器用そうだよね〜。なんかできたりする?」
「なんかって…。編み物と料理くらいなら。」
「マジ!?スゲ〜!今度なんか作ってよ。弁当とか、無理?美咲ちゃんの手作り弁当食いて〜!」
「………そのうち、余裕があれば。」
…光希君は、こういうのおばさん臭いって思うのかな?光希君はいつもヘラヘラしててのに考えてるのかわからない。でも、
「え〜、聞いた?なんかババァ臭い。」
「ね〜、好きな人で来たらマフラーとか編んでそ。」
「今どき珍しくね?マジウケる~。」
女子の陰口はあいつと同じだった。都会の人は皆そうなのかもしれない。私、あまりこういうの言わない方がいいかも。
「マジ!?ちょー楽しみにしてる!!」
でも、彼は優しく無邪気に笑った。あぁ、この人優しいなぁ。
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