ニ本目 本心

 遅刻をした。「遅れてすみません!」大声で謝りながらクラスに入ると隣の光希君が「うお!声でかぁ…!?」と驚いていた。先生だって怒らずに驚いていたし、クラスの女子もくすくす笑っていた。クラスの女子たちは恐ろしいほどのギャルで皆視線が痛い。私はなかなかクラスに入れないでいた。急に怖くなってしまったのだ。後ろから心配そうに「美咲ちゃん?大丈夫?」と言う光希君。私は震えた足で教室に入った。教室は綺麗だった。蜘蛛の巣も雑草もない、綺麗な教室。田舎の中学校を思い出す。汚かったなぁ……。と思う。体から冷や汗が出てくる。私があまりにも怯えてるのが女子にも伝わって女子は笑いながら「田舎臭っ!」とか「陰キャ臭」とか「マジ同じクラスとかありえないんだけど〜!」と言っていた。正直このくらい覚悟していた。ただ田舎者の私には初めての体験で皆優しかったからなおさら恐ろしく感じた。覚悟の上だったのに心臓がきゅうっと縮む。すると大きな暖かい手が私の肩に触れる。そしてふわっと彼の黒髪が私の耳に触れる。彼の身長は私の頭よりもう一つ分頭がある程大きいのになぜ触れた?そう考える間もなく横にはヘラヘラ顔の光希君の顔があった。彼のタレ目、黒髪、高い鼻、赤茶色の瞳、全てが近かった。私と目があって彼は私を離さなかった。しばらくして彼は顔を上げた。何がしたかったのかわからなかった。

 震えは、とっくになくなっていた。彼は先生の出席を無視してギャル女子に近づいていった。

「おっはー、沙奈子さなこ!」

「アハッおはよーミッキー!同じクラスラッキーだねー!今度カラオケ行こー!」

「もちろーん!」

 彼はギャル女子と仲良く話して二人で先生に怒られていた。私はそんな彼を見ながらこう思った。


 ああいうヘラヘラしたチャラい人、苦手だわ。



 私赤城せきじょう 美咲みさきはその後とにかく綺麗な高校に感動して校舎巡りをしていた。何もかも大きくて綺麗で憧れの学校だった。人間関係は難しそうだけど当たり障りのないことしてれば虐められないし、良い学校生活になりそうだな!私はそう思いながらこれからの生活に胸を弾ませていた。ただ一つ。苦手なタイプの光希君と同じクラスになったのは災難だった。何なら一番に知られてしまったし。まぁ、ああいうタイプはだいたい面白くない人ってことに気がつけば私なんかからさっさと離れていく。きっと、問題ないだろう。日光が窓の隙間から零れる。鳥の声と生徒の声。足音。生徒皆綺麗でお洒落で素敵だった。メイクをしっかりして髪も染めてカラコンして、可愛らしい靴とバッグ。田舎者の私には程遠い世界。憧れの…世界。なのに、私は不安でいっぱいだった。本当に私は皆についていける?うまく楽しく学校生活送れるの?せっかくお母さんやおばあちゃんが応援してくれた夢を叶えられるの?不安ばかり募る。頭が痛い。興奮しすぎてしまった。

「んお?いたいた!美咲ちゃーん!何してーんのっ?」

 ………最悪だ。思ってるそばから苦手なタイプの光希君に見つかってしまった。大きな手を振りながらもう片方の手をポケットに突っ込んでいるヘラヘラ笑顔の光希君は明るく笑ってそういっ明るく笑って近づいてきた。

「学校巡り………。」

「へ〜。そういやいつ開いてる?渋谷行くんでしょ?」

 苦手な男子と二人で渋谷?もちろん嫌だが正直渋谷は興味ある。

「そのうち言うね。」

「あっ!そうだメール!メール繋がないと。連絡先教えてー!」

 ………本当に急な人だ。私はメールなんて親しか繋いでないし繋がないもんだと思っていたから戸惑った。ポケットに入ってるスマホを取り出すとまた光希君は声を上げた。

「最新のスマホ!いいなぁ〜!」

 このスマホは入学祝いに買ってもらったもの。ちょっと前はもう少し古いのを使っていた。これは最新なんだなぁ………と思いながらおぼつかない手付きでスマホを開いてメールを開いた。光希君は嬉しそうにメールを繋いだ。そしてそばに私がいるというのに『よろしくね』という可愛らしいスタンプを押してきた。だから私もメールを入れれば誰でも使える無料スタンプから『よろしく』を探し出して送った。光希君は子供みたいに嬉しそうに笑って「教室行こーぜ!」と一緒に歩き出した。

 彼は、私が彼を苦手なの気づいてないんだな。


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