恋する空色ニゲラ

桐崎 春太郎

一本目 都会初の友達

 ちゅんちゅんと頭上で鳥が鳴く。柔らかく暖かい光が私を照らしていた。ガヤガヤと聞こえてくる声。その声が近づくたび私は心を躍らせた。口元はうっすら弧を描き、頬を赤らめる。軽やかなステップで校門を越えた。私はついに高校生だ。


 

 入学式のときに配られたクラス一覧の紙を見ながら一年のクラスがあるA棟を歩いていた。私が通っていた中学校とは違う綺麗な校舎。田舎者の私には友達がいなく、一人で、歩くのは少し悲しいがその感情に気づかぬふりをする。私のクラスはどこだろう?ここらへんのはずなのにな?

 資料を見ながら下を向いて歩いていた。すると誰かにぶつかった。私は短く悲鳴を上げて地面にお尻を打ったが相手はブレずに立ち尽くしている。打ったお尻を撫でながら「すみません」と謝った。そして顔を上げたら一瞬、先生かと思ってしまうほど身長が高く、大人びた表情をしたヘラヘラ笑う男がいた。彼は「だいじょーぶ?怪我とかしてない?」と軽く言って私に手を差し伸ばした。私は初対面で、かつ胡散臭いチャラ男のような人と話すのは少し気まずく小さく「ありがとうございます…」と言って手は借りずに立ち上がった。そしてスカートをはたいた。立ち上がればさらに身長が高いことがよくわかった。黒い短髪の彼は少し不良をも感じさせた。

「ねね、君何組ー?俺は、光希みつきまぁ、ミッキーって呼んでよ!ね?」

 別に友達になった訳でもないのにあだ名を教えてくれた。私は顔を合わせずに言った。

「わ、私は美咲みさきです。クラスは一年D組です。」

 すると彼は顔を明るくして私の肩に大きな手を乗せた。

「マジ!?俺も〜!待って俺ら運命じゃね?」

 凄すぎ〜!と喜ぶ光希君。私は驚いた。同じクラスってことは彼はまだ、一年?

「お、同い年なんですか?」

「うん。俺も一年だよー!よろしくなぁー?一緒に教室行こー!」

 私は都会にはこんなチャラくて大人びた人ばっかなのか?!と驚きながら立ち尽くしていた。

「あ!ミサミサ、今度一緒に渋谷行かねー?」

「みさみさ?」

 私が不思議に思ってそう言うとヘラヘラ笑いながら大きな手をひらひら舞わせて言った。

「美咲ちゃんのあだ名!可愛くなーい?ミサミサって!」

 と、都会の人はすぐあだ名をつけるのか?恐るべし…!

「ちょっと…それは……。」

「嫌?嫌なら仲良くなるまで美咲ちゃんでもいいよ〜?」

「ならそれで…お願いします。」

 私が戸惑いながらそう言うと彼は苦笑した。

「なんだよ、改まって。もう友達なんだから気ぃ使うなって!んなことよりさ!渋谷行こ!シブヤ!」

 私は意外にも優しそうな彼と、行動が早い彼に驚きながらぎこちなく「考えときます…」と言った。それでも光希君は優しく笑っていた。


 都会で初めてできた友達は私とは正反対の少し苦手なタイプの光希君だった。


 キーンコーンカーンコーン………。

「やべっ!?入学初日遅刻だっ!」

「えっ!?」

 私と光希君は二人して急いで走って教室に向かった。結局仲良く遅刻した。

 

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