4、航宙戦闘艦キリシマ
西暦2199年10月24日
月軌道上
核融合炉を積んだ巨大コンテナユニットが輸送船とドッキングしていく。
月面で製造された核融合炉は火星で建造中の“アビスゲート”の動力炉となるものだった。
その規模は過去最大級。戦艦サイズの航宙戦闘艦を100隻は動かせるエネルギーキャパだ。
ドッキングが済んだ後、宇宙服を着た作業員たちが厳重に結合部をチェックしていく。それは宇宙航空法に準じた手順だった。
400メートル程、離れた距離にデアフリンガー級航宙戦艦キリシマを中心とした護衛艦隊が待機していた。
作業の様子をブリッジから艦長のキーラ・アストレイ中佐が眺めていた。
細かい事は副長にまかせて指揮席に座っているだけであるが、指揮官はいるだけでブリッジ内は引き締まる。
緊張感は大事だが、戦闘時ではない状況で余計なストレスを与えることはない。周囲には駆逐艦も展開しているし周辺には警戒機も飛ばしてある。キーラは、一旦ブリッジから下がろうと思い立つ。そしてブリッジから下がるのにどんな理由をつけようかと思案している最中だった。
「
レーダー担当士官が報告する。
「例のクエーツ少佐がスカウトしたというパイロットでしょうね」
副長のガイ・ウエルチ少佐の言葉を聞いてブリッジから出るいい口実ができたと思った。
「
再び報告があったところで待ってましたとばかりにキーラは指揮席から立ち上がった。
「私は新しいパイロットがどんな奴か見てくる。副長、変わって指揮を頼む」
「アイサー」
“キリシマ”を肉眼で視界に捉えたフェルミナ・ハーカーは80式の推進力を絞り速度を落とした。
“デアフリンガー級”を直に見るのは初めてだな、とフェルミナは思った。
着艦方式は、サイドハッチ式。同様の方式は別の艦でした事がある。
あまり好きな方式ではないが、艦からのレーザーロックに合わせてしまえば着艦シークエンスは、ほぼ自動。それまでのコース取りに注意するだけだ。
「
“キリシマ”のオペレーターの指示に従って
宇宙空間に収納誘導用のレーザーが照射された。それを
最終シークエンスを終えると余分な操作をしてしまわないように操縦桿から手を離した。
ちらりと船体を見るとあらためて艦の大きさを実感した。全長は航宙母艦とまではいかないがそれに近い規模の巨大さである。
良い
その時、微細な揺れを感じ取る。警告灯のいくつかを確認したが特にアラート状態ではない。画面も“自動モード実行中”の文字が表示されたままだ。気の所為かと視線を外した時だった。突如機体が傾き出した。咄嗟に操縦桿を掴むと機体を安定させようとした。だが反応がない。画面は赤く“ノーシグナル”の表示がされていた。何らかの理由で一部の電子系の装置が使用不能になったらしい。フェルミナは、機体が傾く一瞬で生命維持装置と推進力のゲージを確認をした。
作動はしている……異常は操縦系だけか?
シート下の強制手動切り替え装置のレバーを引いた。機械的に操縦系を操作できるように切り替える緊急装置だ。
機械系のメーターが正常に動き始めた。
よし!
出力レバーを引き、推進力を確保する。同時にスラスターを操作して船体から離れていった。
何とか“キリシマ”との接触を避けたフェルミナは、艦の頭上に
「すまない、“キリシマ”。機体にトラブルだ。着艦に失敗した」
フェルミナは通信で呼びかけたが応答はない。
「聞こえるか? “キリシマ”」
しばらくしてから返事が返ってきた。
『ハーカー少尉、こちらも機械トラブルだ。どうやら大規模な磁気嵐があったらしい』
「磁気嵐?」
フェルミナは少し疑問に思った。何故なら戦闘機や航宙戦艦にはそういった現象の対処処置を施してある筈だったからだ。
『作業員が直接誘導する。機体をぎりぎりまで寄せてくれ』
見ると開いた着艦口から宇宙服を着た数人の作業員が赤い誘導用ライトを振っていた。
「了解。接近する」
フェルミナが
フェルミナが相手に伝わるように大きく頷く。すると
なんとか
コクピットを出たフェルミナはエアルームに案内された。
隙間なく並べられた戦闘機を横目で見る。フェルミナの搭乗する
「少尉、着任早々、申し訳ありませんでした」
案内してくれている作業員がフェルミナに詫びた。
「気にしないで。あなた達のせいじゃない」
「そう言ってもらえると助かります。何しろこんなのは我々も初めてでしてね」
「磁気嵐といったっけ?」
「ええ、でも太陽フレアじゃないみたいです」
「太陽フレアでなくて航宙戦艦に影響を与えるほどの磁気嵐なんてあるの?」
「私も詳しくないんですが、地球の外側の軌道から届いたそうです。方向的には、確か火星の方からとか……」
「火星?」
二人がエアフロアに入るとドアが閉じられランプが点灯した。
すると身体が急激に重くなる。人工重力が発生したのだ。
同時に部屋には空気で満たされていく。
「あらためて、よこうこそ“キリシマ”へ。ハーカー少尉」
作業員はフェルミナに向かって敬礼した。
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