第102話 再会の地
土曜日の夕方、俺は可知山砦駅に降り立った。
あの時以来だ、季三月にメッセージで時間指定をしていなかった俺は夜という漠然とした時間に間に合わせる為、日没前にここに来ていた。
駅前から高台に向い、季三月と一緒に歩いた登り坂を登る、あの時より体は良くなり足取りは軽いが気分は重い。
脳裏に白いミニスカートを履いた季三月の姿が浮かぶ、白い息を吐きながら振り向いて笑顔を見せた彼女の可愛らしい姿が。
俺は季三月の幻覚と一緒に坂道を昇った。途中、季三月とお茶をしたおしゃれな喫茶店が目に入った。
店内を何気なく眺め、いる訳のない季三月を探す。
ここを超えたらあの林道だ……。
林道の入口の前で俺は立ち止まって軽く息を吐いた。昨日降った雪がまだ溶けずに残っている幻想的な雰囲気の草木の香る道。
このまま俺を異世界に連れて行ってくれても良いんだぞ、季三月に会わせてくれるのなら……。
その道を抜け、最後の長い木の階段を登る、階段の雪は踏まれていなない、まだ誰も来ていないようだ。
幻覚の季三月が俺の前を歩き、俺をあのベンチへと
階段を登り切るとあの白いベンチが見えた。誰もいない……それは分かっていた、階段の雪に足跡が無かったから……でも寂しい……。
俺はゆっくりとベンチに近づき座面の雪を手で払う。もう日が落ちる、だけど雪のお陰で辺りは薄明るい。俺は一人でベンチの端に座った、季三月が座れるように……。
「寒っ」
じっとしていると体が冷える、俺は何時までここで来るかも分からない彼女を待つのか。日付が変わる迄かな? 俺はスマホで可知山砦駅の時刻表を確認した、11時50分が最終列車、って事は11時半には此処を発たなければならない、季三月とのタイムリミットは11時半って事だ。
いや、待てよ? 俺は長時間の屋外待機を軽く見過ぎていた、晩飯もねえし、だいたい寒さに耐えきれないだろ。完全に勢いだけで此処に来てしまった、11時半まで何時間あんだよ!
まあ待て、落ち着くんだ……季三月だって来るなら11時半って事は無いだろ? きっともう直ぐ来る筈だ、じゃないと凍死する、マジで。
俺は何となく落ち着かなくなり、中倉にスマホでメッセージを送った。
『季三月来る前に凍死する』
中倉から直ぐに返信。
『例の可知山砦の展望台か? 今日寒いだろ?』
『季三月が早く来なかったら死にそう、それもいいかもな?』
『山根も苗咲も気にしてたぞ、会えると信じて待つしかないだろ?』
『何やってんだろ、俺。季三月に会える気がしねぇ』
『その時は俺が灰色のカツラ被って女装して迎えに行ってやるよ』
『頼むわ、抱きつくかも知れねえけどな』
中倉とのやり取りで時間を忘れた俺は、気が付くと暗闇の中で街灯に照らされていた。
どっぷりと日が落ちて、眼下に街明かりが煌めいている、今日は空気も冷えているせいか景色が奇麗だ。
一人で眺めるには勿体ないくらいに……。
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