第101話 前夜

「雪だぁ!」


 山根は夜空に両手を伸ばし、子供の様にはしゃいだ。


「寒っ!」


 吐き出した息が白い、俺はたまらずコートのボタンを上まで締めた。バイトが終わり、店の外に出ると雪が静かに降っていて、辺りが粉砂糖をかけたケーキの如く白く月明かりを反射していた。


 ホワイトクリスマスになるのか? 恋人同士には最高の演出だな……。


「大神、いよいよ明日だね」


「ああ……」


「暗っ! 何時にも増して暗い! そういえば大神、投稿してる小説にコメント付いてないの?」


「無い、一つも。閲覧数も殆ど無いし」


「そっか……でも、信じるしか無いよ」


「分かってる、分かってるけど、もしも居なかったらと思うと怖いんだ……」


 山根は俺の背中をバシッと叩いて、両手を広げて言った。


「その時は私の胸で泣きなさいっ! 季三ちゃんほど大きく無いけどね」


「ははっ……」


「何その笑い方……らしくないなあ」


 明日はクリスマスイブ、俺が勝手に日程を決めた季三月との再会の日。


「馬鹿だよな俺……別に約束した訳でもないのに……」


 季三月が姿を消して三週間、誰にも未だ連絡は無い。


「想いは届くよ、アンタは一洲。一途に季三ちゃんだけを好きでいる……妬けちゃうくらいにね……」


「山根……」


「何、しょぼくれてんのよ! 私の好きだった大神は……なんかこう……バカっていうか……最近そういうのが無くなっちゃったのは寂しいよ」


 山根の言うとおりだ、俺は季三月に会えなくなってから毎日気分が落ち込み具合も悪い。


 俺は季三月依存症なのか? 居なくなって初めて分かった、多分そうなんだ。


 自宅に帰った俺は直ぐにノートPCを起動して自分の投稿している小説を確認した。


「閲覧数は4PV……少なっ!」


 メッセージも届いていない。


「何やってんだろ? 俺……」


 明日、あの場所に行く意味あるのか? どうせ季三月は来ないだろうし、そもそも小説を見ても居なかったら俺の独りよがりじゃないか。


 伝わってないのに来なくて諦める?


 逆に季三月に失礼な気がするけど……でも駄目だ、そろそろこの気持ちに決着を付けないと俺の気が保たない。


 諦める……? 分からない…………ただ、会いたい、季三月に……会って君の笑顔を見たいんだ。


 視界がぼやける、涙が零れそうになり、俺は上を向いて制服の袖で目頭を押さえた。

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