最終章 祈り

第100話 約束

『俺の願いが君に届いているとしたら、クリスマスイブの夜、あの思い出の地で会いたい』


 俺は小説投稿サイトの近況報告欄に一つだけメッセージを残した。


 もう、一時間毎の小説の更新は辞めた、意味が無いような気がしたのと、二人の願いが同じならきっと季三月はこのメッセージを……小説を見てくれる気がしたから。


 更新が止まった俺の小説の閲覧数は、ほぼゼロに近かった、だけど偶には誰かが見てくれていた、それが季三月だと俺は思いたい。二人の会いたい気持ちが同等ならきっと会えるだろう、そうじゃ無ければ俺は…………君を思い出として美化して心の奥底に蓋をして沈めるだけだ。


 クリスマスイブまであと三週間、俺は毎日君の事を思い、あの地に向かうのだろう。



 ◇     ◇     ◇



 午前の授業の合間、教室で苗咲が俺に近づいて来て聞いた。


「季三月さんの情報は? 何か分かった事無いの? 大神」


「何も分からない……けどメッセージは送ってある」


「メッセージ?」


「小説投稿サイトに季三月が見れば解るメッセージを書き込んだんだ」


 苗咲は俺に食いつくように顔を近づけて言った。


「そこで連絡が取れるの? 季三月さんと!」


「いや、取れるって訳じゃ無い。ただ、見てくれていたらきっと伝わる筈だ」


「何よそれ、期待して損した……」


 小さなため息を付いた苗咲は期待させるなと言わんばかりに腰に手を当てた。


「苗咲は季三月が小説を書いてたって事、知ってたのか?」


「うん、だけど一度も見せてくれなかった」


「じゃあ、何処のサイトで書いてたとか、ペンネームとかは知らないのか?」


「聞いたけど教えてくれなかった……。あっ! でもスマホで何か確認してた事があった、どれだけ読まれたかとか…………確か、青いアイコンだったよ!」


 青いアイコン⁉ 俺が使ってるサイトじゃないか!


「うおおおっ! ありがとう苗咲! 希望が湧いて来たぞ!」


 俺は勢いで苗咲の手を握ってしまった。


「ちょ! 何、手ぇ握ってんのよ! バカっ!」


 苗咲は顔を真っ赤にして俺の手を振りほどいた。


「あっ、ごめん……。嬉しくてつい……」


「季三月さんがいつも大神がいやらしいって言ってたのが解る気がするわ」


「えっ? いつもでは無いよな……?」


「いつもです!」


 苗咲も少し気分が晴れたのか、俺に笑顔を見せた。

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