第99話 葛藤
自宅に戻り、俺は直ぐに部屋のPCを起動して小説の閲覧数を確認した。
朝から夜まで自動更新された小説は一時間毎に恋愛の新着ページのトップに表示され、ある程度の閲覧数の上昇はあった、だけど……。
「意味あるのか? これ……」
俺は応援コメントが入っていないか確認したがコメントは一つも入っていなかった。
何だか挫けそうだ、この不毛な労力と季三月に会いたいと思う願いが釣り合わなくなって来て、俺はPCの前で目頭が熱くなって気が付けば涙を流していた。
何で……会いたいのに…………君はどう思ってるんだ……?
こんな事に意味はあるのか? 季三月はどうせ見ていない。俺の弱い心に悪魔の自分が囁く。大体、彼女が会いたかったとして近くに居るとも限らない、もし故郷の北海道に帰ったなら会うことなんて叶わないだろう。
このまま二人の関係は自然消滅してしまうのか……。
諦めるしか無いのか、ビターな思い出として……一生引きずりそうだ。
気分が落ち込み、俺は机の上に伏して壁をボーッと眺める、時間の感覚も麻痺して来て自分がどれだけの間そうしているのかすら分からなくなった。
意識が遠のき、瞼が重くなる。もういいや、無駄だ…………きっと誰も見ないし、メッセージも来ない。
無音の部屋にブーッっといきなりスマホが振動し、俺は身体をビクッとさせて起き上がった、もう少しで寝落ち出来たのに……現実逃避の邪魔をしないでくれ。
スマホを見ると中倉からメッセージが届いていた。
何だよ、うるせーな。俺は指を動かすのも面倒くさい気分の中、メッセージアプリを開いた。
『季三月行方不明の件だけど、早坂と関係あるんじゃ無いのか?』
はぁ? 早坂? もう逮捕されて数年間は外に出られないだろうに。
俺は返信した。
『何がだよ?』
『ストーカー被害者が極秘に転居するのは良くあるらしいんだ』
だからって俺に何も言わないとか、そんなの悲し過ぎるだろ。しかも何でそんなに急ぐ必要があるんだよ。
『だからって、一言も無しかよ』
『諦めないストーカーはあらゆる手を使って転居先を探すらしいぞ、だから転居は超極秘でその手の専門家が誰にも気づかれないように仕事を進める事があるそうだ』
そうなのか? それにしたって急ぎすぎな気がするが……でも実際季三月は殺されかけた、彼女のお母さんは家族を二人も失っている、だからもう誰も失いたくないと思うのは必然だ。季三月はお母さんに説得されて仕方なく黙っていたのだとしたら?
俺と同じく、胸が張り裂けそうだったのかも知れない。
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