第98話 不毛な戦い
「――ちず、一洲、ご飯よー!」
母さんの呼ぶ声で俺は目を覚ました。ヤバ、もう七時半だ、脳を使い過ぎて寝ちまったのか。
窓の外はもう真っ暗だ。頭がズキズキする、俺は変な時間に寝ると決まって頭が痛くなる。
所で小説どうなったんだ? 俺は頭に片手をあてて立ち上がり、学習机の上のマウスを揺すってノートPCのスリープを解除し、小説投稿サイトの閲覧数を確認する。
「はぁ? たったの8PVだと?」
これは不毛な戦いになりそうだ、閲覧数を見た俺は一気に挫けそうになった。
そうだ、何かメッセージを。
俺は作者の近況報告ページに季三月に宛ててメッセージを書こうとキーボードの上に手を添えた。
……指が動かない、何を伝えればいいのか分からない。
「一洲! 早く降りてらっしゃい!」
母さんが少し怒気を強めた声で俺を呼ぶ、画面を眺めてフリーズしていた俺はしょうがないとノートPCのモニターを畳んだ。
◇ ◆ ◆
翌日、バイト先の何時ものロッカールーム兼休憩室で、私服に着替え終わっていた山根が言った。
「ええっ? 何を書いたらいいか分からないって?」
「ああ、いざPCに向かうと指が動かなくて……」
「季三ちゃんに宛てたメッセージかぁ……うーん、それってやっぱり二人にしか分からなくて思い出深い話が良いんじゃない?」
「二人にしか分からないか……」
俺は一瞬、季三月とのキスを思い出し、心が張り裂けそうになったのを山根に悟られないように、意味もなくロッカーの扉を開けて誤魔化した。
「うわー、暗いなあ。背中からでも分かるよ……そうだ大神! カラオケ行く?」
「うぇ?」
俺は山根とのキスも思い出して、思わずドキッとして変な声を出してしまった。
そんな格好悪い男の反応を見て山根はケタケタと大きな声で笑って言った。
「大神っ! 私、もう迫ったりしないから大丈夫だよ、気晴らしに行かない?」
「い、いや、遠慮しとく」
俺が大丈夫じゃ無いから……やっぱり意識するだろ、山根とキスしたのだって最近の話じゃ無いか。
「また振られた」
山根は俺を見てニコリと笑った。
「ありがとう山根、家に帰ったらもう少し考えてみるよ」
俺はそう言って山根に手を振って部屋を出た。
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